音楽本特集第一弾、朝妻一郎が語る音楽にまつわる権利と日本のポピュラー音楽史



田家:Winkのディレクターが水橋春夫さんでジャックスのギタリストだったというのは、当時知ったときびっくりしました(笑)。

朝妻:水橋くんはジャックスもすぐ辞めちゃったんだけど、その後テイチクレコードに入って、その後キングレコードに移って横浜銀蝿なんかのヒットを出していて。その後、ポリスターに入って、我々がWinkというアーティストを探してポリスターに持っていったら担当者が「僕です」って水橋くんだった。

田家:そういういろいろな方とのお付き合いがレコード会社のスタッフよりも時期も長ければ、関係も深いのではないかと本を読んで思ったりしたんです。それだけ音楽作り、制作現場と関係が近いということでもあるんでしょうし。

朝妻:幸いなことにそういうふうに恵まれていましたよね。

田家:この本を読ませていただいて1番強く思ったのは、今レコード会社と音楽出版の関係性というのが時代の転機にあるんだろうなと思って。特にサブスクが登場してきて、レコード会社の役割が変わってきている。もはやレコード会社いらないのではないかみたいな。

朝妻:それは下手すると音楽出版社も同じことが言われれちゃうんですよね。自分の作った音源を任せると、配信から著作権の使用料まで全部やってくれるTuneCoreがあるわけです。だから、日本でも新しいヒットをYouTubeとかで出しているアーティストで、僕ら音楽出版社もレコード会社もなくても大丈夫ですって人たちが結構出始めていますもんね。

田家:レコード会社が権利を抱え込んでいたりする時代ではなくなっているんでしょうし。

朝妻:アーティストをそれ以上にいい形にするという点では絶対音楽出版社もレコード会社も役に立つと思うんです。ただ、なんとなく今はレコード会社も音楽出版社もなくても大丈夫だよっていう風潮が出だしているところがあるので、我々がいるからこうなったんだということがちゃんとアーティストの方たちにも分かってもらえるようにいろいろ頑張る必要が絶対あると思うんですよね。

田家:レコード会社と音楽出版社は運命共同体ですか?

朝妻:そうですね。基本的にはレコード会社と音楽出版社とアーティストと、曲を提供する人たちというのは全部が運命共同体で。やっぱりその歯車が上手く噛み合って、ヒットを大きくするっていうことが絶対エブリバディ・ハッピーになることだと思います。

田家:次の曲はレコード会社と音楽出版という2つの会社の違いの典型ではないかと思ったりしたんですけども、新井満さんの話をお書きになっていて。新井満さんはレコード会社を通さないで朝妻さんのところに連絡を?

朝妻:それは後ろに森直美さんという、前にキングレコードのディレクターをやっていた人がいるんですけど、彼女がたぶん新井さんに言ってくださったと思うんです。要するに最初からレコード会社に持っていくと、そのレコード会社の好みじゃないとかタイプじゃないとか言われると話が終わっちゃうよと。でも、出版社だったらその作品がどこのレコード会社がいいかということを考えてくれる。だから、出版社に水先案内人を任せた方がいいんじゃないかというサジェスチョンをしてくださった。我々音楽出版社は作詞作曲家の方と契約しますから、書かれた曲が1円でも多い収入をあげるようにはどうするか。当然レコードをヒットさせることも大事ですし、ヒットさせたレコードを他のアーティストでカバーしてもらうとか、あるいは映画の中で使ってもらうとか、コマーシャルで使ってもらうということ、ありとあらゆる選択肢を考えてやっていくのが音楽出版社です。

Rolling Stone Japan 編集部

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