米司会者も盲信、男らしさを取り戻す「睾丸日光浴」の嘘

タッカー・カールソン(Photo by Janos Kummer/Getty Images)

米FOXニュースの司会者、タッカー・カールソンがプロデュースするドキュメンタリー番組「Tucker Carlson original」の最新話「The End of Men(男たちの終わり)」の予告編が公開された。男らしさをつかさどると言われているホルモン「テストステロン」が減少している現状にフォーカス。上半身裸の男たちがトラック用のタイヤを引き裂いたり、丸太を割ったり、マシンガンを連射したりする。そこに突如登場するのが「睾丸日光浴」のシーンだ。

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まるで根拠のない風変りな健康法にありがちなように、低レベルのレーザー治療がテストステロンの増加と繁殖能力の増強をもたらすという考えも、今に始まったことではない。赤色光治療――1967年にハンガリーの科学者は「photobiomodulation(光バイオ調整)」と名付けた――は筋肉回復、鬱病、傷の手当に効果があるとして再び注目されており、極右の健康系Podcastでも、マッサージガンや赤外線サウナの広告リンクと一緒に頻繁に取り上げられている。

予告編では、パーソナルトレーナーのアンドリュー・マクゴヴァーン氏が、赤色光治療の効能を証明する「データはたくさんある」が「まだあまり取り上げられていない」と語っている(事実データはたっぷりある――医療データベースPubMedで検索すると5000件近い検索結果が出てくる――だが、痛みの緩和と精力増強はまったく別の話だ)。

だがとりわけ投射レベルに関してはリスクもある。「この治療法を支持する人々は、低レベルの赤色光や近赤外線を使用します。ですがポップカルチャーでは、『日焼け』という風に語られています」と言うのは、マギル大学科学社会研究室の科学コミュニケーター、ジョナサン・ジャリ氏だ。「こうした伝言ゲームにより、一部の人々が日焼けサロンに行って陰嚢を紫外線に何度も当てるのが心配です。紫外線はより強力な光で、突然変異を引き起こす場合もあります。皮膚がんになったら冗談では済まされません」

陰嚢の黒色腫はめったにないですが、と言って同氏は言葉を和らげたが、睾丸の日焼けにより別のガンにかかる可能性もある――こうした行為をマクゴヴァーン氏は「Bro Science」と「ホメオパシー(同種療法)」とをかけて「ブロメオパシー」と呼ぶ。この用語はもともと「メインストリームの情報を信じない」人から生まれたという。

エセ科学は科学的不信感に対する反発ではないが、慢性的に科学を攻撃する極右の姿勢とは相通じるところがある――臨床研究ではなく意図的に人格に焦点を当て、「そっちこそどうなんだ」と突っかかってくる。

男性ホルモンの低下からホメオパシーに飛躍するのは、普通の人にはなかなか想像もつかないかもしれない。ジャリ氏の説明によれば、ホメオパシーはとことんまで希釈することで、活性化成分を破壊して「エキス」を引き出すことにある。それこそが、大昔からファシストを突き動かしてきたやり方だ。グロテスクなまでに科学を曲解して、予め準備したメッセージに合致させる。そのメッセージは往々にして、いかなる弱さにも屈しない想像上の理想的な男らしさと結びついている。

Translated by Akiko Kato

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