ジョン・スペンサーは何度でもロックを蘇らせる 90年代の革命と初期衝動を貫く現在地

ジョン・スペンサー・アンド・ザ・ヒット・メイカーズ

 
エルヴィス・プレスリーが歌うロックンロールがセクシーなキャデラックなら、ジョン・スペンサーは手塩にかけた改造車。その頑丈なボディはパンクやニューウェイヴ、ヒップホップなど様々な音楽性でチューンアップされている。

かつてジョンが率いたバンド、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン(以下、JSBX)がブレイクした90年代後半。カート・コバーンの死をきっかけに、アメリカを席巻していたグランジ・ブームは下火になり始めていた。そんななか、JSBXは打ち上げ花火のように威勢が良く、孤高の輝きを放っていた。バンドの活動休止以降も我が道を突き進んできたジョンが新バンド、ヒット・メイカーズを結成。1stアルバム『Spencer Get It Lit』を発表した。これが嬉しいほどに最高の内容。かつて「ジョンスペ」と呼んでいたリアルタイムのファンはもちろん、ジョンを知らない世代にこそ聞いてほしいロックンロールの魅力が詰まっている。

筆者が初めてジョンのライヴを見たのは1988年。ジョンが80年代に組んでいたバンド、プッシー・ガロアが来日した時のことだった。当時、アメリカのインディー・シーンでは、ソニック・ユースやスワンズなど、「ノイズ・ロック」(日本ではジャンク・ロックとも呼ばれた)のバンドが台頭。ボストンで結成されたプッシー・ガロアもそういったバンドとともに紹介されることが多く、メタル・パーカッションを取り入れたガレージ・パンクなサウンドで注目を集めていた。来日公演では初期ソニック・ユースのメンバーだったドラムのボブ・バートが頭にパンティをかぶって、ドラムの代わりにバイクのボディを叩くという強烈なパフォーマンスを見せてくれた。



そんなプッシー・ガロアが解散して、91年に結成されたのがJSBXだ。メンバーはボーカル/ギターのジョンを筆頭に、ジュダ・バウワー(Gt)、ラッセル・シミンズ(Dr)というベースレスのトリオ。メンバー全員が一斉にノイズをかき鳴らしていたプッシー・ガロアに比べると、JSBXは音が整理されてバンドのアンサンブルをしっかり聞かせ、ブルースやR&Bからの影響を明確に打ち出した。バンド独自のスタイルを確立したのが『Orange』(1994年)で、音をギリギリまで削ぎ落とし、切れ味鋭いギター、パワフルなドラム、そして、ジョンのエモーショナルな歌声の魅力を際立たせている。なかでも印象的なのがオープニング曲「Bellbottoms」だ。ストリングスで幕を開けて、ジョンとコーラスとのコール&レスポンスがあり、そこから曲に突入していくドラマティックな展開は、ジェイムズ・ブラウンとJB’sみたいでスリリングだ。



JSBXはルーツ・ミュージックに根ざしながら、そこにモダンなアプローチを加えることでリアルタイムのロックを生み出していた。ルーツへのリスペクトと時代感覚を持ち合わせているところは、当時、交流があったビースティ・ボーイズやベックと同じ。ジョンは古いブルースやR&Bを聴きながら、同時代のヒップホップやエレクトロニック・ミュージックも聴いていた。R.L.バーンサイドやルーファス・トーマスといったブルースやR&B界のベテラン・ミュージシャンとコラボレートする一方で、GZA、UNKLE、モービーらにリミックスを依頼。ヒップホップがサンプリングという手法でR&Bを継承したように、ジョンはブルースやR&Bのプリミティブなエネルギーを現代的な感覚/サウンドでロックに取り戻そうとしていたのだ。


1998年撮影のJSBX。左からジョン・スペンサー、ラッセル・シミンズ、ジュダ・バウワー(Photo by Joe Dilworth/Avalon/Getty Images)

JSBXは90年代のロック・シーンを全速力で走り抜けたが、2004年作『Damage』をリリース後に活動休止状態になり、ジョンはマット・ヴェルタ・レイと結成した二人組編成の新バンド、ヘヴィ・トラッシュで再出発。2012年にJSBXとしては久しぶりの新作『Meat + Bone』を発表して完全復活かと思いきや、続く『Freedom Power』(2015年)発表後、ジュダが病気でツアーに出られなくなったことや様々な理由でバンドは活動休止することになる。

振り返れば、2000年代に入って「ロックンロール・リバイバル」と呼ばれたギター・ロック再評価の動きがあり、ストロークスをはじめインディー・シーンが注目を集めた。そして、ガレージ・ロックの名産地、デトロイト出身のホワイト・ストライプスが国内外で高い評価を集め、アメリカン・ロックの新たな顔になる。JSBXはそういった一連の流れを先導するようなバンドだった。だからこそ、ロックに元気がない、と言われている時代にジョンが新たなスタートを切るというのは頼もしい知らせだ。

 
 
 
 

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