フォンテインズD.C.『Skinty Fia』全曲解説 フロントマンが明かす「進化」と「苦悩」

 
8.「Skinty Fia」

「Skinty Fia」っていうのは、ドラマー(トム・コル)の大叔母がよく口にしてた言葉なんだ。彼女は筋金入りのアイルランド人で、絶対にアイルランド語しか話さなかった。そのフレーズについて、スラングみたいなもんだって彼女は言ってたらしい。トムから最近聞いたんだけど、要するに罵り言葉の一種なんだ。うっかり何かを落とした時とかに、「ちくしょう」って意味で口するような感じ。大まかに訳すと、「鹿の断罪」って意味でね。上手く言えないけど、変異や運命、不可避性、そして海外で暮らすアイルランド人のイメージに付合するいろんなことを、その言葉が象徴しているように思えた。ボストンはアメリカの中のアイルランドって言われるけど、Skinty Fiaっていう言葉は俺にとってのそういうものなんだ。本来の意味が変化し、新たなものに生まれ変わる。正式なものじゃないから不純ということにはならない。ディアスポラだからこそ、純粋さを保っていられる。それは誰も見たことがない、突然変異の獣なんだよ。

このアルバムで、俺はそういったテーマを追求しようとした。この曲で描かれているのは、酒やドラッグやパラノイアがつきまとう不幸な人間関係だけど、多分それは俺がこの街で暮らしながら感じていることと、頭の中で鳴り響いてる破滅への警笛の象徴なんだ。



9.「I Love You」

これ以上ないってくらいベタなタイトル。思いっきりクリシェなトピックで自分にしかできないユニークなものを作ってみたくて、「I Love You」っていう曲を書こうと思った。予想通り、結局これもアイルランドについての曲になった。この曲は2部構成になっているんだ、スピリチュアルな意味でね。俺はキャリアを通じて、文化と自分が生まれ育った国を結びつけて塗りつぶしたものを表現することで、自分自身と他人がそれを理解できるよう促そうとしてきた。俺がやってるのはそういうことだと思ってる。

俺は母国を離れ、その混乱の元凶を作り、今もどこか見下したような態度を取ってる国で暮らしてる。そのことには罪悪感を覚えてる。ある意味では、俺はアイルランドを見捨てたんだ。俺がいなくなったからって国が滅びるわけじゃないけど、クリエイティビティを搾り取った上で投げ捨てたように感じてる。アイルランドを離れたことに対して、俺はそういう屈折した罪悪感を覚えているんだ。



10.「Nabokov」

ギタリストの(コナー・)カーリーが書いた曲で、タイトルも彼が決めた。たぶん(ウラジミール・ナボコフに)感化されて、その作風を音楽で表現しようとしたんだろうね。トラックと曲名が決まってる状態で、俺はほぼノンストップで一気に歌詞を書き上げた。倒錯した解釈っていうか……礼儀として認識される恋愛における妥協を描いてる。

関係を成立させる上で必要な妥協の誇張表現なんだ、馬鹿げてるくらい大袈裟だけどね。誰かを好きになり、人生をその人と共有するために、自分の人生における自律性と自由の一部を進んで放棄する時の思いを表現したかった。“俺は隅で待機し、君のタバコに火を点ける”なんていうラインもある。恋愛を成立させるために必要な妥協を、従属っていう形で表現しているんだ。



From Rolling Stone US.




フォンテインズD.C.
『Skinty Fia』
2022年4月22日リリース


FUJI ROCK FESTIVAL ’22
2022年7月29日(金)、30日(土)、31日(日)新潟・湯沢 苗場スキー場
※フォンテインズD.C.は7月31日(日)に出演
公式サイト:https://www.fujirockfestival.com/

Translated by Masaaki Yoshida

 
 
 
 

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