クリープハイプ尾崎世界観が語る、初歌詞集に綴られた「言葉」のバックグラウンド

クリープハイプの尾崎世界観(Photo by Taichi Nishimaki)

メジャー・デビュー10周年の記念日となる4月18日にクリープハイプがインディーズ時代から歌い続けてきた「ex ダーリン」の再録バンド・バージョンを配信リリースした。同曲は3月20日に開催されたツタロックフェスでトリを務めたクリープハイプが最後に演奏したバラードだが、別れた恋人への未練を歌うビターな味わいは、まさにクリープハイプの真骨頂。観客が息を殺すようにじっと尾崎世界観(Vo, Gt)の歌に聴きいっている光景は、クリープハイプらしい見事なフェスの締めくくり方だったと思うのだが、今回の尾崎のインタビューの話題はその「ex ダーリン」に加え、もう1つある。

【写真を見る】ツタロックフェス2022のステージに立つクリープハイプ

それが「ex ダーリン」の配信と同日に尾崎が上梓する初の歌詞集『私語と』。そこには「ex ダーリン」をはじめ、インディーズ時代から最新曲まで、尾崎がこれまで書いてきた中から選んだ75曲の歌詞が収録されている。尾崎による歌詞のユニークさは自他ともに認めるところだが、歌詞に対する評価は果たして、本当に歌詞だけに対するものなのか。そこを確かめてみたかったという、歌詞集を上梓する理由の1つが、なんとも彼らしい。

歌詞だけについて尋ねることができる、こんな機会は滅多にあるものじゃない。そもそもの質問も含め、歌詞についてあれこれと訊きつつ、「ex ダーリン」への思い入れやメジャー・デビュー10周年を迎えたクリープハイプのこれからについても話してもらった。

―ツタロックフェスのプロデューサーにクリープハイプをトリに選んだ理由を尋ねたところ、「若手がいっぱいいる中でクリープハイプに一番新しいアルバム『夜にしがみついて、朝で溶かして』をひっさげてライブをやってもらうというのが最新型のロック・フェスだと思ったから」という答えが返ってきたのですが、フェスの最後を盛り上げて終わらずに「ex ダーリン」で締めくくったところに「シビれた。トリを任せてよかったと思った」とも言っていたんですよ。

嬉しいです。もしかしたら、ああいう終わり方がこれからのトレンドになるかもしれないですね(笑)。



―プロデューサーはロック・フェスが「わーい!」と、ただ単に楽しいだけで終わることに対して、お客さんに何か残せているんだろうかという疑問を感じていたそうです。だからこそ、クリープハイプがクリープハイプならではと言える世界観を作り上げたところに意味があると感じたそうなのですが、クリープハイプとしてはフェスの最後をああいうふうに静かに締めくくるというのは意識していたんでしょうか?

そんなに意識はしていなかったです。それぐらいコロナ禍のフェスが定着してきているのかもしれないですけど、周りと違うことをやろうと言うか、引き算のほうが得だなというのは、前々からずっと思っていたことでした。だから、周りの出方はずっと窺っていたんですけど、トリだと他のバンドを見る機会が多くなるじゃないですか。トリは数えるほどしかやったことはないんですけど、トリじゃなくても、割と周りを見てそこをイジると言うか、スタンダードなものに対して真逆のことをやることが多かったので、そういったところが出たのかもしれないですね。意識してやったわけではないですけど、一昨年とか、コロナ禍になる1年ぐらい前は、フロアが静まり返るというのを意識していたんですよ。だから、そういうふうに言っていただけたのはうれしいですね。

―そのツタロックの最後を飾った「ex ダーリン」も収録されている歌詞集の『私語と』を読ませていただきました。とてもおもしろかったです。感情に訴えかけてくるという意味でも、言葉を駆使した表現という意味でも読み応えがあって、変な話、クリープハイプのファンではない人が読んでも全然楽しめるんじゃないかと思ったのですが、歌詞集の出版は、どんないきさつから実現したのでしょうか?

元々、出版社の編集の方と歌詞集を出したいという話はしていたんです。ただ、なかなかタイミングが合わないまま先延ばしになっていて、それがこの4月でちょうどメジャー・デビュー10周年なので、そこに合わせるのがいいんじゃないかということになりました。歌詞集なので一から書き始めるわけではない分、いつでもやれるというのが自分の中にあって、逆にそれがなかなか踏み切れない原因だったのかなと、今考えると思いますね。

―つまり、ご自分の歌詞をまとめた本を出したいという気持ちは前々からあったわけですね?

そうですね。この3年ぐらいですね。どのバンドも気軽に出せるわけじゃないじゃないですか。クリープハイプを語る時に歌詞のことを挙げていただくことが多いので、もし出せるならどれだけ通用するのかを確かめてみたかった。音楽以外の文章も書いていますけど、音楽と文章を書く自分を、明確にセパレートして考えていたんです。でも、どこかでそこをくっつけてみてもおもしろいんじゃないかという気持ちもあって、それが歌詞集なのかなと思いました。

―音楽と文章を書く自分をセパレートして考えていたとおっしゃいましたが、バンドの楽曲の歌詞を書く作業は、音楽と結びついているんですか、それとも結びついていないんですか?

歌詞を書くのは、音楽ですね。それ以外の文章を書くのとはやっぱり違うし、音楽をやっている自分に負けないようにと言うか、挑戦する気持ちでやっているので、なるべくそこの力を借りたくないという気持ちがありますね。

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