エイドリアン・シャーウッドに学ぶレゲエ伝説、ホレス・アンディを輝かせたプロデュース術

左からホレス・アンディ、エイドリアン・シャーウッド(Photo by Micheal Moodie, Masataka Ishida)

『Midnight Rocker』は新しいマスターピースだ。2022年に生まれたホレス・アンディの新たな代表作と言っても過言ではないと思う。

彼は70年代から活動し、レゲエの名門レーベルのスタジオ・ワンからの『Skylarking』(1972年)など数々の名作を残してきた。80年代にもNYの先鋭的なダブ・レーベルのWackie’s(後にミニマルダブの中心的存在、ベーシック・チャンネルにも大きな影響を与えることになる)と組んだ『Dance Hall Style』をリリースするなど意欲的な活動を続け、その評価の高まりは留まることを知らなかった。

90年代に入ると、活動の場をUKに移したこともあり、レゲエの枠を超えて新たな文脈を獲得し始める。マッシヴ・アタックに起用されたのをきっかけに新たなファンを獲得し、UKプロデューサーのジャー・シャカから、DJのアシュレ―・ビードルまで様々なコラボを展開。そこから過去作にも再び光が当たり、1977年の傑作『In The Light / In The Light Dub』がBlood & Fireから再発されて話題になったりもした。

そして2022年、『Midnight Rocker』でタッグを組んだのは、On-U Soundの総帥エイドリアン・シャーウッド。かなりシンプルかつオーセンティックなサウンドでありながら、On-U印の尖った要素も盛り込まれるという、大御所とのコラボワークにおける理想的バランスを実現させた本作からは、過不足のない美しい均衡が聴こえてくる。

UKレゲエ/ダブの革新的プロデューサーは、レジェンドを輝かせるためにどんなヴィジョンを描いていたのか。エイドリアン・シャーウッドが語り尽くすホレス・アンディ論、最高の入門編になったと思う。


エイドリアン・シャーウッド(Photo by Masataka Ishida)

―あなたがホレス・アンディを初めて聴いたときのことを教えてください。

エイドリアン:70年代の初頭、俺が13歳の頃だったと思う。曲は「Skylarking」だったね。誰かのハウスパーティで聴いたんだ。今振り返ってみると、彼は当時、サウンドシステム界隈では最も人気のあるシンガーだったんじゃないかな。そこで初めてホレス・アンディを知ったんだけど、特に何か感じたというより……自分もまだ13歳だったし、パーティでかかる曲のどれもが新鮮だったというか。とにかくヘヴィで包み込まれるような感じの曲だとは思ったけどね。

そこからホレス・アンディという名前を意識するようになると、どのパーティに行っても、どのサウンドシステムも必ず彼の曲をかけていることがわかってきた。その後のダンスホール時代も変わらず彼の曲は人気があったね。ニュー・エイジ・ステッパーズでもカバーした「Problems」のオリジナルを聴いた時は「なんだ、この曲は。すげえな!」って思ったよ。「Rock To Sleep」もサウンドシステムがよくかけていたな。これまでに聴いたどの曲よりもヘヴィだった。このベースラインが、「Welcome To Jamrock」(ダミアン・マーリーのヒット曲。元ネタはアイニ・カモーゼによる1984年の楽曲「World A Music」)の系譜に繋がっていったんだね。とにかく、ホレスは素晴らしいアーティストだ。彼と一緒にアルバムを作ることができて、本当にハッピーだよ。


左から『Skylarking』『In The Light』(「Problems」収録)ジャケット写真(discogsより引用)





―ホレス・アンディの特徴を4つの分野にわけて、それぞれ聞かせてもらえますか。まずは「歌」について。

エイドリアン:歌が上手な歌手はそれこそ星の数ほどいるけど、一聴してすぐわかるようなスタイルを持った歌手というのはそれほど多くない。俺のなかではバーニング・スピア、グレゴリー・アイザックス、それにホレスくらいしか思いつかない。彼らの声は、個性的な楽器のようなもの。ボブ・マーリーの声は素敵だし、彼らしい個性もあるけど、なんというのかな……曲の中に溶け込んでいる感じがする。ホレスの声は“エンジェル・ボイス”とも表現されるけど、曲の中で際立っていて、心にひっかかる感じがするんだ。それだけの個性的なスタイルがあるからこそ、彼自身の曲はもちろん、彼なりの解釈を添えたカバー曲も素晴らしいんだと思う。特に「Every Tongue Shall Tell」とか「Don’t Let Problems Get You Down」(ともに『Skylarking』収録)とか……曲名をもっと挙げようと思えば出来るけど、あまりにも多すぎる。理解してほしいのは、彼は“生ける伝説”だということ。今も新しいものを作り続けているんだから。



―「歌詞/アティテュード」についても話してもらえますか。

エイドリアン:彼はキングストンの出身で、今でもキングストンの治安の良くないエリアに住んでいる。キングストンでの生活が、彼のアティテュードに反映されているのは間違いないと思う。彼の声は、キングストンで何が起こっているかを表現しているんだ。彼のアティテューに込められているのは、過去に起こったことや未来への希望というものに対する彼なりの解釈なんじゃないかな。だからこそ、彼の曲はアップリフティングで明るいものが多いんだと思う。彼の歌には、社会の持つ問題や人々の思いが反映されているんだ。「This Must Be Hell」(名プロデューサーのタッパ・ズーキーとの曲。デイヴ・ブルーベック「Take Five」がサンプリングされている)や「Materialist」はその好例だね。人々が、見えないものに対して闘っている姿が描かれている。上手く言えないけど、彼のキングストンに於けるアティチュードに対する解釈というものは、理にかなっていると思うな。


ここで挙がった「This Must Be Hell」と「Materialist」は、今回の『Midnight Rocker』でも取り上げられている

―「作曲」についてはいかがでしょうか。

エイドリアン:彼は決して多作な人ではない。今回の『Midnight Rocker』でも何曲か彼の過去作品を焼き直したものを収録しているけど、そうしたのはどれも俺がすごく好きな曲だからだよ。あとは「You Are My Angel」とか、マッシヴ・アタックとやったものとかは素晴らしいと思う。彼は多作ではないけど、赫赫たる輝きを放つ作曲家なんだ。



ホレス・アンディが参加したマッシヴ・アタック「Angel」(1998年作『Mezzanine』収録)は「You Are My Angel」を下敷きに作られた曲

―最後に、「人柄」についてお願いします。

エイドリアン:彼は愛すべき好人物で、一緒にいると本当に楽しいんだ。一方でどこか突出したキャラクターがあるというか(笑)。彼は30人の子どもの父親なんだよ。先日も電話で話した時に、『今日は何をする予定?』って訊いたら『子守をしてる』って言うんだ。『お孫さん?』『違うよ、僕の30番目の息子だよ! 4歳になるんだ』って(笑)。彼はアフリカ系のフリオ・イグレシアスだね(笑)。

Translated by Tomomi Hasegawa

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