米団体指導者、女性信奉者の尊厳を蹂躙 性的行為も【長文ルポ】

思わせぶりな「長い沈黙」

10代をオランダで過ごしたマッサロの両親は、高い意識の状態を作って優れた洞察力を教授するとされる自立プログラム「シルバ・メソッド」にのめり込んだ。両親からユース講座に入門させられたベンチーニョ青年は、10代でインド放浪の旅に出て、人力車をヒッチハイクしてヨガと瞑想を学び、オランダに帰国したあと2010年にYouTubeチャンネルを開設した。初期の動画に映る彼はひどい髪型に矯正入れ歯をしたダサい少年で、鋭いまなざしを向けながら、エセスピリチュアルな禅問答を繰り出していた。動画のひとつで彼はカメラをまっすぐ見つめながら、たっぷり56秒間も無言のまま微笑んだ末にこう語る。「今この瞬間、こちらを見ているのは何だろう? あなた? あなたが『自分』と考えているもの? 今やっているのは『見る』という行為だろうか?」(長い沈黙はマッサロの教えの特徴でもあり、一言も発さずに長時間見つめ合う「アイコンタクト」をフォロワーに推奨している)

知名度を獲得し、スピリチュアル系のセミナーやパネルディスカッションに何度か出演した彼は、2016年には新興宗教の聖地コロラド州ボールダーに拠点を移した。そこで「ベンチーニョ・マッサロTV」という購読サービスを立ち上げ、「トリンフィニティ」という運動を設立。自分は信奉者をワンランク上の啓蒙ステージへと導くことのできる「高次元の存在」だと主張し、2035年までに人類全体を招き入れることができると説いた。このころ彼の企業は毎月Facebook広告に1万ドルをつぎ込むようになったと言われる。また派手な隠れ家の入場料として、1人あたり5000ドルを徴収していた。理念から逸脱する彼に幻滅した数人の信奉者は会合を開き、マッサロの指導を受けずにトリンフィニティを運営することにした。これを受けて、彼は荷物をまとめてアリゾナ州のセドナへ移り、地元のアートセンターで毎週セミナーを開催した。派手なライフスタイルが知られるようになったのもこのころだ。

マッサロの教えの中核となる教義に独自性はない。ひとことでいえば、スピリチュアル集団ラー文書『一なるものの法則』と、自己啓発書の決定版『ザ・シークレット』で知られるところとなった「引き寄せの法則」を組み合わせたものだ。「彼の教えは非常に単純な概念で、同じことを違う言葉で修飾しています」と言うのは、2017年に彼の集団と過ごした経験を持つビー・スコフィールド氏だ。「ニューエイジ風の言葉を詰め込んでいるんです」と彼女は言う。「(彼は)1時間座り込んで、様々な言葉で表現します。そうして取り巻きをトランス状態にするのです」


オランダで育ったベンチーニョ・マッサロは10代の大半をインドで過ごした。(Photo by Keilan McNeil)

だがマッサロが得意としたのは、ソーシャルメディアを使いこなしたことだった。この時点で彼は初期のダサい髪型やストライプのTシャツを捨て、方向転換してエクササイズに励み、グリーンジュースを飲み干し、葉巻をくゆらせ、よりセクシーでゴージャスなニューエイジ指導者として打ち出した。またYouTubeにも頻繁に登場するようになった。「この手のことに人々をハマらせる大きな要因は、ヒマな時間とYouTubeのアルゴリズム、そして精神世界への憧れです」と、元信奉者のマクニールさんも言う。2017年、彼自身も重度の鬱病を抱えた大学中退者で、LSDに手を出したりYouTubeを眺めたりしていた。

カナダでビーガンレストランを営む3児の母グラハムさんも、YouTubeでマッサロの活動を知った。「彼は誠実な好青年に見えました。とても聡明で、自分の人生を作るのは自分だ、というような引き寄せの法則に精通していました」

マッサロのフォロワーには長年真理を追究してきた人々が多く、中にはスピリチュアル団体を渡り歩いてきた人もいる。彼らの大半は同意のもと、無償でマッサロの下で働いた。カリー・ソレンセンさんもそんな1人だ。彼女は2017年から2019年までマッサロの側近だったが、それ以前は性犯罪で有罪判決を受けた指導者ジョン・オブ・ゴッドが運営するブラジルのスピリチュアル・ヒーリングセンターにいた。もう1人、オランダを拠点にマーケティングコーチをしているアイラ・フェルハイエンさんは、一時期ニュー・タントラというセックス集団にはまったが、幻滅して会社勤めを始めた。そんな時、2016年に『インナーチャイルドを癒してチャクラを覚醒せよ(Healing the Inner Child and Awakening the Chakras)』と題したマッサロの動画に出くわした。そして1~2週間動画を見まくり、600ユーロをはたいてハワイのマウイ島にある隠れ家のひとつに向かった。

Translated by Akiko Kato

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