米団体指導者、女性信奉者の尊厳を蹂躙 性的行為も【長文ルポ】

支配力を行使する器

グラハムさんもアレクトラさんも数か月が経過するうちに、マッサロが自分を人間としてではなく、支配力を行使する器とみなしていることに気が付いた。グラハムさんの主張によれば、ある晩信奉者とみんなでレストランに出かけた時、突然マッサロから公共の場で脱げと言われたそうだ。グラハムさんは恥ずかしさから断った。その夜遅くマッサロは彼女に携帯メッセージを送り、あれはテストだったと説明した(「真実かもしれないし、私が覚えていないだけかもしれない」とマッサロ)。「私が彼を信頼せず、公共の場で言われたことをして羞恥心を犠牲にしなかったがために、私は2人の関係に本気でないことを証明したわけです」と彼女は言う。「恥の上塗りですが、私はやり直したいと思いました。もう一度レストランで服を脱げと言ってもらったら、そうするつもりでした」

それが終わりの始まりだった、と彼女は言う。マッサロが興味を失ったようだ、と別のメンバーに打ち明けると、お前は「邪悪な存在」か、それとも「皆を引き裂いてコミュニティに疑念の種をまこうとしているスパイ」なのか、と問いただすメールがマッサロから届いた。「このまま残りたいなら、これまでに私がついた嘘や、ネガティブな発言や行動を仲間に告白して、私が正しい側についていることを証明しなければならない、と言われました」。グラハムさんは言われた通りにした。だが数日後、Instagramをスクロールしていると、ネクセウムをテーマにしたHBOのドキュメンタリー『The Vow』の広告が目に留まった。自称「世界でもっとも聡明な男」キース・ラニエールが運営する、複雑なマーケティング手法を駆使した自己啓発カルト団体だ。

「ああ何てことだ、と思いました」と、ドキュメンタリーを見た時のことを彼女は振り返った。「まるで全部同じでした。登場人物も同じ、キースとベンもそっくり――身のこなしも、話し方も、話の内容も同じでした。『なんてこと、私は特別なリーダーと特別な計画に関わっているんじゃない。私がいるのは、おかしなナルシストな虐待集団だわ』と思いました」2020年9月、パンデミックの真っ最中にグラハムさんは脱退した。

一方、マッサロは自立を促す曖昧な文言から脱皮して、激動の社会政治的情勢を利用するようになった。陰謀論に便乗し、コロナウイルス否定論やウイルスの起源に関する根拠のない憶測や、反ユダヤ主義者で有名なデイヴィッド・アイクのYouTube動画をFacebookに投稿した。最近のInstagramの投稿では、コロナイウルスを「策略」と呼び、ワクチン接種を義務付けられるくらいなら仕事を辞めてしまえ、とフォロワーに呼びかけている。こうした投稿についてマッサロはコメントを拒み、ローリングストーン誌の質問からも「こうした報道の裏に少なくともいくらかは不誠実/不正な意図がある可能性が高いことが伺える」と述べた。

Black Lives Matter運動が最高潮を迎えた2020年6月、マッサロは物憂げに遠くを見つめる写真を投稿した。キャプションには「自分にとって最善なことを心から求めるなら――うだうだと抑圧者を責めるのは止めよ。それは真の勇気ではない。むしろ自分の弱さを教えてくれたことに感謝せよ。自分の愛せない部分、変えられる部分を教えてくれたことに」 何世紀にもわたる歴史的抑圧を蔑ろにした、という一部の批判的なコメントを除き(これに対し、マッサロは人種についての投稿ではないと否定した)、多くの白人の取り巻きは彼の意見に同調し、Facebookのコメント欄にハートマークと炎の絵文字を投稿した。

2021年1月7日、アレクトラさんは飛行機でエクアドルのキトへ向かい、マッサロと彼のチームに合流した。キトで1週間を過ごした後、アレクトラさんとマッサロは交際を始めた。最初の数週間は穏やかだったそうだ。「彼は感情の起伏が激しく、愛情を表に出しました」と彼女は言う。「よく一緒に素敵なディナーを食べに行きました。私を膝の上に座らせ、葉巻に火をつけて、私の虜と言わんばかりにじっと私の眼を見つめました。今までで一番美しいエネルギーに出会った、と言わんばかりに」。彼女には啓蒙の素質がある、と彼は言い、一緒にパナマシティへ行って精神鍛錬を続けようと言った。彼女は喜んで同意し、宿泊代と航空費に1300ドル以上をつぎ込んだ。その後、彼女はマッサロに認められ、コミュニティ内部で特別な地位を得た。しかし、すぐにそれも終わりを迎えた。「あの男の頭にあるのは権力と支配だけです」と、彼女は涙ながらに言った。「部屋にいる人間は誰であろうと、支配したくてたまらないという感じでした。そこにいた女性は皆、力を奪い取られていました」


マッサロとの体験について書かれたジェイド・アレクトラさんの2月のInstagramの投稿(Jade Alectra/Instagram)

Translated by Akiko Kato

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