サム・ライミ監督が大いに語る、『ドクター・ストレンジMoM』と唯一無二のキャリア

サム・ライミ監督(Illustration by PJ Loughran for Rolling Stone)

米ローリングストーン誌による、サム・ライミ監督の独占インタビュー。『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(全国公開中)でスーパーヒーローさながらのカムバックを果たした彼が、孤高のキャリアを振り返る。

スパイダーマン三部作がスーパーヒーロー映画の新時代を切り開いて以来、このジャンルでは久々のサム・ライミ監督作品となる『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』。完成までの最後の数週間は、まさしくマルチタスクに追われるマッドネス状態だ。監督はロサンゼルスの自宅から、3カ所の作業を同時進行で進めた――ロンドンのアビーロード・スタジオでオーケストラとサントラを収録する作曲家ダニー・エルフマンの様子をリモートでチェックしつつ、役者のアフレコに耳をそばだてながら、音響編集の指揮をとる、という具合に。

それもそのはず。なにしろ監督が撮影している間も、脚本家のマイケル・ウォルドロン(Disney+のドラマ『ロキ』ではコミックの要素を巧みに盛り込んだ)が最後の仕上げをしていたような作品だ。2016年の第1作『ドクター・ストレンジ』を監督したスコット・デリクソンが「創作上の意見の違い」を理由に続編から降板し、後任として引き継いだライミ監督は、手直しが必要な脚本とクランクアップの期日を前に、スタート前からすでに出遅れていた。

だがライミ監督は、5月6日劇場公開(※日本では5月4日)のドクター・ストレンジ最新作における混沌とした制作行程を楽しんでいるようにも見える。なにしろ彼は、20歳の時にたった35万ドルの制作費用で破天荒なインディーズホラーの決定版『死霊のはらわた』を作った男だ。そしてその都度、新たな撮影テクニックを考案しては、お手製ホラーメイクの新境地を切り開いてきた。実際『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』は、3つの異なるマーベル作品の直属の続編にあたる。『ドクター・ストレンジ』第1作、昨年の『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』、そしてエリザベス・オルセン演じるワンダ・マクシモフを主役の1人に据えたDisney+の『ワンダヴィジョン』だ。



「非常に複雑な作品だ」と話すライミ監督は、2022年早々に撮影をやり直したが、それはストーリーをわかりやすくするためでもあった。「今まで私が関わった中で、おそらくもっとも複雑な作品だ。1人どころか5人のキャラクターを相手にするだけじゃなく、マルチバースにもそれぞれ分身がいる――かつ、1人1人に独自のストーリーが展開するんだ」

「独創的な監督」(visionary director)というフレーズが映画宣伝の常套句になっている昨今だが、ライミ監督は本物だ。彼の作品のカメラワークはまるで生き物のように、荒々しいほどの存在感を放つ。映画人生の中で迎えた絶頂期は数知れず、独自の不条理主義が炸裂するホラーの傑作『死霊のはらわたII』(1987年)に始まって、コミック原作ではないスーパーヒーロー映画『ダークマン』(1990年)、名人芸が光る犯罪ドラマ『シンプル・プラン』(1998年)、そしてもちろん前述の『スパイダーマン』シリーズ。ちなみにこの作品は、現在マーベルがシネコンを独占するようになった突破口を切り開いた。

2013年以来1本も映画を作っていなかったライミ監督だが、62歳にして新しい1ページを開こうとしている――本人も明かしているように、ひょっとしたらスパイダーマン最新作もあるかもしれない。「一刻も早く次の作品を見つけたい」と監督。「そして現場に留まり続けたい。今回の映画でやる気に火が付いたようだ」

Translated by Akiko Kato

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