サム・ライミ監督が大いに語る、『ドクター・ストレンジMoM』と唯一無二のキャリア

ケヴィン・ファイギへの想い

―『スパイダーマン3』での経験とネガティブな反響のせいで、今回の作品を引き受けようか悩んだそうですね。

ライミ:ああ、これらキャラクターはとても愛されているから、慎重に扱わなくてはならない。私の独特の不条理観を、最愛のスーパーヒーローに適用してほしくないという人もいるかもしれない。代表的なキャラクターを題材にする時は慎重に進めなくてはならないんだ。これだけ愛されてきたキャラクターをいじらないほうが得策では、と考えたこともある。ファンに対しても、自分自身に対しても嘘はつきたくないからね。

そんな時エージェントから電話がかかってきた。「『ドクター・ストレンジ』の続編に空きが出たが、興味はあるかい?」 私はすぐさま「なんだって? もちろん、やろうじゃないか」と言った。私は『ドクター・ストレンジ』が大好きなんだ。1作目は素晴らしかったし、とても独創的だった。ベネディクト・カンバーバッチにも興味があったし、「そういえば、今はケヴィン・ファイギがマーベルの社長だったな?」と気が付いた。敬愛する上司の下で働けるわけだ。そういったことすべてが決め手になった。

―ケヴィン・ファイギとは『スパイダーマン』シリーズでご一緒してましたが、当時はどんな印象でしたか?

ライミ:彼は勤勉な若者で、当時マーベルの社長だったアヴィ・アラッドと密に連絡を取り合っていた。舞台裏や撮影現場ではいつも仕事していた。若いころの彼によくしておいて良かったよ!

―恩返しというわけですね。

ライミ:そのとおり。やあ、ボス!(笑)


『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』より
©️Marvel Studios 2022

―今回の作品でベネディクト・カンバーバッチはドクター・ストレンジの分身を演じ分けていますが、彼の演技についてどんな印象を持ちましたか?

ライミ:別人格を演じ分けるために、ベネディクトは些細なところで変化を出していた。微妙なニュアンスや立ち振る舞い、独特の話し方。彼は役者の中の役者だ。懐にあるツールを、非常にエレガントに使いこなす。「アクション」と言ったあとの2分半は、彼の演技に見入ってしまう。彼があまりにも魅力的なので、「カット」と声をかけるのを思い出さなくてはならないほどだ。

―あなたが一番驚かされたキャラクターや俳優は誰ですか?

ライミ:ベネディクト・ウォンだね。彼があんなに面白い人間で、撮影現場に活気をもたらしてくれる人だとは知らなかった。ものすごくクリエイティブで、一緒に仕事をしていても楽しい。映画に必要なエネルギーやユーモアのセンスを演技にプラスしてくれる。

―エリザベス・オルセンとインタビューした際、彼女はワンダ・マクシモフについて確固たる考えを持っているのがわかりました。そのことはどう作用しましたか?

ライミ:彼女はエミー賞作品、それも自分が演じるキャラクターとその成長ぶりを題材にした作品の出演者だ。そんな彼女に人物像や感情について説教するのは野暮というものだろう。私は彼女と一緒にストーリーの流れを組み立てることはできるが、ストーリーを語る上で彼女の存在は欠かせない。でないと筋が通らなくなる。

―スコット・デリクソンが監督した『ドクター・ストレンジ』でとくに気に入っているのはどんな部分ですか?

ライミ:東洋哲学を盛り込んだところが好きだった。彼は最高にクールな心の旅を見せてくれた。アストラル体とか、広い意識を持った時の視覚的演出とか。そういうビジュアルやシークエンスは鳥肌ものだった。我々も彼のやり方を踏襲して、そうした流れに沿ってストーリーを展開していくことができた。

―ご自身の意見では、マイケル・ウォルドロンは脚本作りでどんなふうに貢献したと思いますか?

ライミ:本当にあの男は最高だ。彼は非凡な想像力と、マーベルの歴史について完璧な知識をもたらしてくれた。キャラクターやそれぞれの相関関係、経歴について、彼はまさにエキスパートだ。あれがなかったら私もおしまいだっただろう。だが彼が潤沢な想像力を注ぎ込んでくれた。彼はキャラクター同士を交流させ、彼らの素顔や欠点も描こうとする。小説家としてマーベルのコミックを書いているようなものだ。そこがいいんだよ、スタン・リーが描いたマーベルのスーパーヒーローが他とは違うのもそこだからね。人間らしい一面、欠点、過ち、クセの強い個性。マイケルもドクター・ストレンジが少しエゴイストで、不安を抱えているところを気に入っている。

Translated by Akiko Kato

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE