サム・ライミ監督が大いに語る、『ドクター・ストレンジMoM』と唯一無二のキャリア

『スパイダーマン3』からの名誉挽回

―製作の終盤で撮り直しをした主な目的は何だったんでしょう?

ライミ:観客はことあるごとに「ここは理解できない。このコンセプトは解せない」と言ってくる。あるいは「これは十分わかっているのに、第3幕でまた説明が入った」「その通り、そんなことすでにわかってるよ」とか、「この後の流れを理解するためにも、これは知っておいて欲しかった」とか。今回のように複雑な作品では何度も試写をして、どこが分かりにくいか、どこが長ったらしくて観客を飽きさせているかを知る。テンポはいいが、中だるみして観客には不要な箇所はどこか、特定する。多くを語らずとも、観客が自然と理解できることもある。理にかなっているように思えても、編集の段階で「ふむ、ここは中だるみするから飛ばそう、観客自身に考えてもらおう」という風になる。それは観客の思考を理解することでもある。時には誇張して、観客が十分にリアクションできるようにする。作品のオリジナリティを認識すること。そしてチャンスがあったら、そこから広げていく。

―今回の『ドクター・ストレンジ』を、『スパイダーマン3』からのある種の名誉挽回ととらえていましたか? ちなみにあの作品にも面白いところはたくさんありますが、監督ご自身は辛口でしたね。

ライミ:そうだね。私にとっては非常に辛い体験だった。スパイダーマンをもう1作作って、名誉挽回したいと思った。(お蔵入りになった)『スパイダーマン4』――あれがそうなるはずだった。気持ちの整理をつけたかった。そこそこ出来のいい作品を作るつもりはなく、自分の中では高いところに基準を置いていた。ただあの脚本は、撮影初日までに自分の望むレベルにまで持っていけないと思ったんだ。

―では、今回の作品はあなたにとってどんな存在ですか?

ライミ:どちらかというと、マーベル映画をとことん堪能したあとに、「自分にはマーベル映画を作れる力が残っているだろうか?」と考えさせられた作品だ。思い出すだけでも大変だった――まるでマラソンだよ。「よし、力は残っている。世の子どもたちにスーパーヒーロー映画の作り方を見せてやろう」と思った(笑)。 冗談だよ。だが確かにそういう部分もあった。私がスパイダーマン作品を手がけて以来、世の中はずいぶん変わった。新しいテクノロジーに新しい技術。あの当時、自分たちが実装しようとしていた技術も、より優れた大きな最新システムに発達した。だから最初の『スパイダーマン』を手がけてから20年後に、またスーパーヒーローの世界に戻れたのは最高だった。

―当時のテクノロジーがここまで進化して嬉しい、というものはありますか?

ライミ:『ザ・ギフト』という映画を制作中に(視覚効果監督の第一人者)ジョン・ダイクストラが訪ねてきて、スパイダーマンをどういう風にしたいか?と言ってきた。「実はジョン、高層ビルに装着できるようなカメラリグを作ろうかと考えていたんだ。ビルの上を昇降できるようにするには、かなり大きなエンジンが必要だ」 すると彼はこう言った。「そういう装置を作ろうとすれば、人が死ぬことになるぞ。やめておけサム。絶対うまくいかない」「じゃあどうする?」すると彼は「CGIならできると思う」と言った。

人間と見まがうようなCGIなど今まで見たことがない、と私が言うと、彼は「どうかな。今はまだツールが足りないが、今のうちに開発を始めれば、必要な時までにはテクノロジーを整えて置ける」 今までで一番クールなアイデアだと思い、「よし、やろう」と言ったよ。

―お蔵入りになった『スパイダーマン』作品で、もっとも残念なことは何ですか?

ライミ:ブルース・キャンベルには素晴らしいカメオ役を用意していたから、残念だった。

―噂では、彼はミステリオを演じる予定だったそうですね。

ライミ:それも選択肢のひとつだった。もちろん他の選択肢もあったが、それもひとつの案だった。私はクレイヴン・ザ・ハンターがいないのが残念で、『スパイダーマン』の次回作に登場させるつもりだった。私自身、つねづねクレイヴンとスパイダーマンの対決を大画面で見たかったしね。彼は究極のハンターで、スパイダーマンはもっとも敏捷な空の魔術師だ。1人の人間としてのピーターの成長も見たかった。

Translated by Akiko Kato

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