柴那典が語る、平成30年間のヒット曲の背景を書いた評論集



田家:「あ、これか!」と思いましたね。

柴:この曲は実際ヒット曲ではあるのですが、この年にヒットした曲ってもっともっとたくさんあって。この曲、実は年間100位以内には入っていないのですが、あえて選びました。

田家:ウィークリーで15位という。こういう曲を選んでいるのが奇をてらったわけではなくて、なぜ選んでいるかということの展開が実に説得力があった。女性論ですもんね。

柴:そうですね。これもこの本の裏テーマの1つで、平成というのがどういう時代だったのかを位置づけるときに、昭和の時代に人々を縛り付けていた価値観とか、そういうものが少しずつ解けていった時代だったんじゃないかと。その1つが女性の年齢。そこが変わっていった象徴として、この曲が書けるんじゃないかと。

田家:「私がオバさんになっても」の章の見出し、「昭和のオバさんと令和の女性」というタイトルがついていますね。平成という時代を経て、女性がどう変わったのか。「私がオバさんになっても」の歌詞の中に〈女盛りは19だとあなたが言ったのよ〉という一行があって、これについて検証されている。

柴:はい。これは当時のインタビューを読み返して、実際に森高さんの周りのスタッフの方がこんなことを軽口でどこかの現場でおっしゃっていた。それにちょっとカチンと来たっていうのが、この曲が生まれたきっかけらしいんですよ。

田家:いろいろな資料を引用されているんですけど、1996年の週刊文春の阿川佐和子さんとの対談も引用されていて、当時阿川さんが42歳、森高さんが26歳。で、阿川さんが「私はおばさんだから」って言っているんですよね。42歳と26歳で今おばさんって誰も言わないですよね。

柴:あまり言わないですよね。

田家:こういう1曲がいかに時代を象徴しているかのとてもいい例として、この「私がオバさんになっても」を選ばれていたわけですが。本は一部、二部、三部と分かれておりまして一部が平成元年から10年。ミリオンセラーの時代。二部が11年から20年。これがスタンダードソングの時代。第三部が21年から31年。ソーシャルの時代。これはいい括りでしたね。

柴:ありがとうございます! 最初にミリオンセラーの時代だけは決まっていました。当然90年代は100万枚ヒットがたくさん出た時代なんだと。ただ、そうすると次の10年、最後の10年をどうするか。最後の10年をソーシャルの時代にするというのも決まっていました。真ん中の10年って実は2つ言うことができて、1つはインターネットが出てきたことによって、CDが売れなくなっていく。音楽業界が迷走する時代ということも言えると思うのですが、曲をいろいろ紐解いていくと、やっぱり歌い継がれていく名曲が多いなとも思ったので、そういう意味でスタンダードソングの時代にしました。

田家:10年間の象徴的な1曲がこれですね。SMAPで『世界に一つだけの花』。

Rolling Stone Japan 編集部

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