柴那典が語る、平成30年間のヒット曲の背景を書いた評論集



柴:この曲は2010年のオリコン年間ランキングで言うと決して上位ではない。

田家:ね。33位ですってね。え、もっと売れたんじゃないのって思いました。

柴:調べてみると、2010年のオリコン年間チャートトップ10はAKBが6曲、嵐が4曲、つまりCDの売上で流行が測れなくなっていく時代です。この曲を聴いて「懐かしいな」と思う人は多くてもCDとしてはそんなに売れていない。そこの乖離が2009年頃から顕著になっていって、その状況をある種象徴する曲です。

田家:第三部「ソーシャルの時代」の中に2011年というのが入ってくるわけですが、何を選ばれたんだろうと思ったらレディ・ガガでしたね。「ボーン・ディス・ウェイ」。

柴:そうなんです! 実は最初は『平成 J-POP史』っていう仮タイトルで考えていたので、日本の楽曲から選ぼうとしていたのですが、そうするとすごく苦労した。もちろん震災があったので、それを受けてのチャリティソングもたくさんあったんですけれども。洋楽に目を広げてその年に沢山聴かれた曲、時代を象徴する曲ってことを考えるとレディ・ガガなんじゃないかと。

田家:ね。2011年レディ・ガガを取り扱った章の見出しは「震災とソーシャルメディアが変えたもの」。

柴:今振り返ると、Twitterなどのソーシャルメディアが広く人々に普及したのは2011年頃だった。LINEも2011年なので、スマートフォンを使って多くの人がコミュニケーションをするという、今みんなが当たり前にやっていることが始まったときにどんな社会の変化があったのか。実はそれを1番体現している人って、やっぱりレディ・ガガだったと思うので。そういう意味でも時代の象徴になったなと。

田家:2010年がいきものがかりの「ありがとう」で、2011年がレディ・ガガの「ボーン・ディス・ウェイ」。2012年が初音ミクの「千本桜」。これは大見出しが「ネットカルチャーと日本の“復古”」。このへんは柴さんしか書けない(笑)。独壇場ですね。

柴:『ヒットの崩壊』を出す前、2014年に『初音ミクはなぜ世界を変えたのか』を書いてまして。

田家:いやー、名著ですよ。

柴:あれを書いたときは個人的には「この新しい動きってなんだろう」と思っていたんです。ボーカロイドって最初はアニメキャラのブームのように扱われていたけれども、曲を聴いてみるとものすごく切実な作り手たちがたくさんいる。この文化現象ってなんだろう? というところからスタートしていたので、今振り返るとそのときボカロに気づいていてよかったなって自分でも思いますね(笑)。

田家:70年代のフォークソングは音楽に疎い人たちが発信側に回ることができた。ラップがそうだったという流れの中に書かれていましたもんね。

柴:そうですね。時代、時代で新しいテクノロジーが出てきたときに、新しいカルチャーが生まれる。これはある種ちょっと暴論ではあるんですが、僕の見立てとして60年代のサマー・オブ・ラブがあり、80年代のセカンド・サマー・オブ・ラブというクラブカルチャーがあった。ちょうど20年置きなんだったら、2007年にサード・サマー・オブ・ラブがある。それが初音ミクなんだ! という(笑)。

田家:いや、目からウロコでした(笑)。

柴:ただ、当時は初音ミクをアニメとかゲームとかそういったオタクカルチャーの文脈で語るようなものしかなかったので、無理やりにでも音楽に紐付けて語りたいと思ってました。で、そういう本を書いたことが『平成のヒット曲』で「千本桜」を書いたことにも繋がっていると。

田家:そういう流れの中で今日の6曲目、2017年平成29年の曲をお聴きいただきます。星野源さんで「恋」。

Rolling Stone Japan 編集部

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE