!!!が語る波乱含みの新作、XTCやR.E.M.の影響、日本でのクレイジーな経験と若さの秘訣

2019年11月1日、渋谷O-EASTで開催された前回の来日公演にて(Photo by Kazumichi Kokei)

 
前作から約3年待たせただけあって、!!!(Chk Chk Chk/チック・チック・チック)の9thアルバム『Let It Be Blue』は、全ファン納得の踊れるキラー・チューンが満載。初期の“ディスコ・パンク”と形容された作風を出発点に、1stアルバムから20年かけて多種多様なサウンドを飲み込み、熟成を重ねてきたバンドの集大成と言える鉄壁の1枚が完成した。9月に待望の来日も決定した!!!から、前作に引き続きニック・オファーが登場。実は波乱含みだった新作の話題はもちろん、XTCやOMDから受けた影響、初来日時のエピソード、アラフィフになった今も短パンキャラを維持して踊り狂える若さの秘訣まで、怒涛の勢いで語ってくれた。


―新作は、率直に言って満塁ホームラン級の出来だと思います。2020年に公開したシングル「I’m Sick Of This」や、ダークな曲もあったEP『Certified Heavy Kats』とはトーンがやや違って、ライブでの!!!を思い出させる、とてもエネルギッシュでバラエティ豊かなアルバムになりましたね。

ニック:そういってもらえるとすごく嬉しいよ。ありがとう。

―パンデミックの初期から現在までの間、気分的にはどのような変化があったのでしょうか?

ニック:アルバムの内容がそのように変化したのは、パンデミックでバンドがバラバラの状態でアルバム制作をしなければならなかったからだと思うんだ。これまでももちろん各レコードで変化はし続けてきたけど、皆で一緒に作れなかったことは大きな変化をもたらしたんじゃないかな。時間ができたから、これまでよりもフォーカスすることもできたし、色々なことを試してみる時間があったことも影響していると思う。



―1曲目の「Normal People」は、ジョアン・ジルベルトみたいでかっこよかったですよ。

ニック:それはかなりの褒め言葉だな(笑)。ありがとう。

―!!!のアルバム1曲目には毎回驚かされますけど、フォーキーで内省的な「Normal People」で始めることにしたのは何故ですか?

ニック:本にも同じことが言えて、面白い文章で始まる本の方が惹きつけられると思うんだよね。レコードも同じで、例えば面白いドラムの音なんかで始まると、お!と思う。だから、本にせよレコードにせよ、俺は何かの始まり方に興味があるんだ。このレコードのスタートに「Normal People」を選んだのは、このレコードでは何が起こるかわからないぞ、というのをリスナーに知らせるため。少なくとも3曲目くらいまで聴かないと、俺たちが今回いったい何を作ったのかわからないと思う。アルバムの最初にあの曲を持ってきて、今回のアルバムってどんなレコードなの!?っていうサプライズを与えたくてさ。新作は、サプライズの連続だからね。スペイン語の曲もあれば、R.E.M.のカバーもあれば、パンク・ソングもある。最初の曲は、これからたくさんの驚きが起こることの告知みたいなものなんだ。



―今回はソングライティングのクレジットにあなたの名前がない曲が結構ありますよね。ラファエル・コーエンなど各メンバーの持ち味も、これまで以上に出てきたと思います。どんな風にアルバム作りを進めたのか、プロセスを教えてもらえますか?

ニック:ネットでフォルダを作り、Abletonセッションを交換しながら曲を作っていったんだ。お互いにセッションを送り合い、もらったファイルを開き、その音の上に自分の音を作り重ねる、そんな感じ。中には俺には何ができるかわからなかったセッションもあってさ。開いてはみたものの、何を乗せたらいいかわからない、みたいな。そういうトラックは、俺が作ったパートはなしで完成したからクレジットに名前が乗ってない。今回は、メンバーそれぞれがより曲作りに大きく関わっていると思うね。まあでも、今回に限らずクレジットは『THR!!!ER』(2013年)くらいから少しずつ変わってきてはいるんだけどさ。他のソングライターを招いたり、あのアルバムからラファエルも入ったし、彼はあの時から曲作りでどんどん大きな役割を果たすようになっていったからね。

―グアテマラの血を引くラファエルが加わってから、もともとたくさんの色を持っていた!!!のパレットが、より色彩豊かになった感じがします。ミーア・ペイスのヴォーカルが素晴らしい「Panama Canal」も、これぞ最新型の!!!、と思いました。彼らの貢献については、いかがですか。

ニック:そうだね。ラファエルは今回のレコードでこれまで以上に前面に出ていると思う。彼が1人で書いた曲もあるし。!!!の皆がそれぞれ異なるパーソナリティや個性を持っていて、皆が関わるぶん、それが各曲に他とは違う何かをもたらしているんじゃないかな。彼らが関わることでサプライズが生まれる。俺なら絶対にやらないようなことが、曲の中で起こるわけだから。皆それぞれに、自分以外は誰もっていない独特の感性を、曲にもたらしてくれていると思うし、それが!!!の音楽を常に新鮮で絶えずエキサイティングなものにしてくれているんじゃないかな。



―これまでもドナルド・トランプへの怒りを表明してきたあなたですが、今のアメリカの一部に移民を嫌う空気が漂っていることと、新作が多民族の街であるニューヨークらしいサウンドを強調した感じの内容になったのは、何か関係があるでしょうか?

ニック:意図的にそうしたわけではないけれど、それは常に俺たちのサウンドの一部であり、ニューヨークの一部でもある。だからこそ俺たちはニューヨークに越してきて、ここに住んでいるわけだしね。ニューヨークの音楽やカルチャーにはいつだって興奮させられるし、それはやっぱり様々な人々が集まっているからこそ。だから、ニューヨークのそういった部分に!!!はずっと影響を受けてきていると言えると思う。今回のレコードで今までよりも特別それを意識したわけじゃないけど、もしリスナーがそういう雰囲気をより感じるのであれば、それは多分、俺たちが作りたいと思っていた様々なサウンドを、前よりもうまく作れるようになり、自分たちの音楽に取り入れることができるようになったきたのかも。

Translated by Miho Haraguchi

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