マネスキンが語るロックバンドとしての信条、よりよい社会のために声を上げる意味

2022年4月17日、コーチェラ・フェスにて撮影(Photo by Frazer Harrison/Getty Images for Coachella)

 
サマーソニック出演に加えて、東京・豊洲PITにて単独公演も決定。世界中に一大センセーションを巻き起こし、時代の寵児となったマネスキン(Måneskin)は、激動の1年に何を考え、何を思い、どんな変化と向き合ってきたのか。待望の初来日が迫る今、メンバー4人へのインタビューにて、バンドの現在地について率直に問いかけた。

改めて驚くべきは、平均年齢21歳の彼らが、とてもクレバーでタフである、ということだ。母国イタリア以外の人々が彼らを“発見”したのは昨年かもしれないが、2015年の結成から苦闘の日々と華々しい成功を経て、すでにマネスキンにはデヴィッド・ボウイやマドンナやレディー・ガガの系譜にも連なるポップ・アイコンとしての覚悟が備わっていた。だからこそ環境の激変にも彼らは1mmも自分を見失わなかった。「最高のロックンロール・バンドである」という大事な信条を守りつつ、一つのルールやスタイルには決して縛られず自由で貪欲な音楽的発想を持つこと。そして、よりよい社会を形作るために声を上げ、立ち上がるということ。そのメッセージに是非耳を傾けてみてほしい。


左からトーマス・ラッジ(Gt)、ヴィクトリア・デ・アンジェリス(Ba)、ダミアーノ・デイヴィッド(Vo)、イーサン・トルキオ(Dr)


「激動の1年」とバンドの哲学

―今年4月にはコーチェラへの出演もありましたが、パンデミックを経てライブツアーに戻ってきた実感はいかがですか?

ダミアーノ:最高だよ。ステージに立った時は「本当に戻ってきたんだ」と実感した。初めてのコーチェラは、ただただ興奮しまくりだったね。

トーマス:この1年を経てだからなおさらだった。「うわぁ、まじか!」ってね。何か込み上げるものさえあった。

―2021年5月のユーロビジョン・コンテストの優勝から激動の1年だったと思いますが、バンドのアイデンティティは揺るがず強固になっているように思います。この1年、自分たちが失わずにいようとしてきたことは何でしょうか。

ダミアーノ:とにかく楽しむってことじゃないかな。余計なことを考えず、やりたいことをやる。楽しく曲を作って、それを大勢の人たちに届ける。バンドとしてそこを大事にしたい。実際、LAで3カ月過ごして沢山の曲を書いたんだ。そうすることで、変に浮かれたりせず、地に足をつけて、目の前のことに集中できる。ワールドツアーにしても、大スターになるにしても、音楽があってこそのこと。いつだって一番大事なのは音楽だ。だから、ちゃんと曲作りに専念する時間を取ることで、気持ちがブレることもないし、楽しむこともできる。

ヴィクトリア:イタリア以外の国で知られるようになったのはこの1年だけど、バンドとしては7年一緒に活動しているわけで。その過程で少しずつバンドとして自信を持てるようになってきたからね。これまでも自分たちで道を切り拓いてきたし、その気持ちは今も変わらない。これからも、いろいろなことに挑戦して、楽しみながら、自分たちらしさを追求していきたい。その中で与えられるチャンスを楽しみたい。ストレスが多くなることもたまにあるけど、自分たちは今やりたいことをやっていて、それをやれていることは本当にラッキーなんだってことを肝に銘じて、気負わず、楽しんでやっていきたい。



―ダミアーノがユーロビジョンの優勝スピーチで「Rock and roll never dies!」と言ったのも話題になりましたが、その後の自分たちのブレイクが「ロックの復権」の象徴のように受け止められたことについては、どんな風に捉えていた?

ダミアーノ:自分たちがロック復権の立役者だなんて微塵も思っていなくて、あのステージでのスピーチは自分たちに向けて言ったことなんだ。何年間もずっと闘い続けて、自分たちがやりたいことをやるのに苦労もあった。俺たちの気持ちを挫かせて、邪魔しようとする連中もいた。それでも自分たちのやりたいことを貫くんだっていう思いであの言葉を言ったんだ。でも、もちろん、多くの人がロック・ミュージックをまた好きになってくれるのは嬉しい。ロックに限らず、生楽器を鳴らす音楽こそ、復権させるべきだと思っている。そうすることで、メインストリームのシーンがもっとバラエティーの富んだものになるから。俺たちは、これまで通り自分たちの好きなことをやり続けるだけ。それでハッピーだ。その結果、ロックが復権したとしたら嬉しいし、復権しなかったとしてもそれはそれで構わない。

―実際に生楽器を鳴らす音楽がまた活気を取り戻してきているという実感はありますか?

ダミアーノ:それは感じるね。ソロ・アーティストも生音のサウンドをもっと取り入れているし、ツアーやライブでもコンピュータから音をただ流すんじゃなくて、みんなバンドを連れて演奏させている。そういう意味では、復権の兆候は見られるけど、どうなるかはもう少し様子を見てみないとわからない。俺たちだってポシャるかもしれないしね。

全員:(笑)



―フォー・シーズンズのカバー曲「Beggin」がTikTokでバイラルしたこともバンドをスターダムに押し上げる役割を果たしたわけですが、TikTokというプラットフォームやそこでの音楽の広まり方に対してはどんな印象を持っていますか?

ヴィクトリア:凄くクールだなと思ったのは、TikTokでバイラルになった曲は当時何のプロモーションもしてない、5年前にレコーディングした曲だったってこと。ずっと泣かず飛ばずだった曲がいきなり大ブレイクしたわけ。ヒットの理由が広告キャンペーンとか、私たちがテレビでパフォーマンスしたからとか、宣伝したからとかじゃなくて、みんなが曲を気に入ってくれて自然に起きた現象だったのが良かった。TikTokの何がいいかって、若い人たちが普通にいろんな音楽に出会えること。私からすると、10年前のラジオみたいな存在。でも、ラジオみたいにどの曲をかけるかを誰か偉い人が決めてるんじゃなくて、動画を投稿する人がそれぞれ気に入った曲を選んでいる。しかも世界中の音楽から選ぶことができる。そこからバイラルになるものもあれば、そうじゃないものもある。もちろんバイラルになった酷い音楽もたくさんあるわけだけど(笑)。

ダミアーノ:(爆笑)。まあ、それが民主主義だから。

ヴィクトリア:そうね。でも凄いと思ったのは、数カ月前にフリートウッド・マックの曲がTikTokでバイラルになったでしょ。そのおかげで彼らのことを全く知らない若い世代が今では彼らの素晴らしさを知って曲をいつも聴いている。そういういい面もたくさんあると思う。

イーサン:自分がTikTokで面白いなと思うのは、TikTokだと曲のある部分を切り取って注目される場合が多くて、例えばある曲のサビやヴァースだけを切り取ったり、さらにリミックスしたりしているところだね。ある曲のボーカル・パートだけを別のトラックに重ねたり、違う曲同士を組み合わせたりもする。そういう創造性に富んだ新しい音楽との出会いがあるのが面白い。

Translated by Yuriko Banno

 
 
 
 

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