ドリカム、グラスパーら熱演 「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL」レポート

2日目、5月15日(日)も曇りながら時折日が差す絶好のフェス日和。「THEATRE STAGE」のトップバッターはWONKだ。長塚健斗(Vo)が「ゆっくりまったり楽しんでいただければ」と言うように1曲目、5月11日にリリースされたばかりのニューアルバム『artless』から「Cooking」を演奏し始めると、会場に上質で柔らかな空気が流れる。「Orange Mug」に続き披露された「Migratory Bird」も、アコギと長塚の柔らかなボーカル重なり、まさに日曜の午後にピッタリのムードに。「Real Love」では石若駿がゲストで登場。荒田洸とのツインドラムで強烈なグルーヴができあがったところに、さらにJUAが登場しラップが炸裂すると、テンションが加速していく。ラストは「全てを包み込んでくれるような曲を作りたかった」(長塚)という「Umbrella」を投下。その伸びやかな声と、温もりのある懐の深いサウンドは、まるで全てのことを浄化してくれるかのようだ。


WONK feat. 石若駿(Photo by Takahiro Kihara)

Vaundyは、今誰もが一度はそのライヴを観たいアーティストの一人だ。登場前から手拍子が起こり、期待感が会場を包む。オープニングナンバーは「不可幸力」。太いビートとしなやかなハイトーンボーカルで一気にその世界に引き込む。Vaundyの捻りの効いたリズムにBOBOのドラムは欠かせない。テンポ良く10曲を披露。キャッチ―なメロディと豊かな表現力で、客席の全世代を夢中にさせていた。このフェスについてSOIL&“PIMP”SESSIONS・社長にインタビューした際、Vaundyのことを「ステージのフロントに立つべきオーラがある。なんともいえない特別なものを持っている」と絶賛していたが、この言葉を聞いて誰もが納得するであろう、素晴らしいパフォーマンスだった。


Vaundy(Photo by 岸田哲平)

Nulbarichは「5年間活動をしてきて、そのうち2年はコロナだったので実質3年目ということでいいかな」とJQ(Vo)が語り、「フェスが動き始めたことに生きる希望を見いだせた」と吐露した。思うように活動ができなかった悔しさをぶつけるように「Spread Butter On My Bread」「Super Sonic」「STEP IT」など、「踊れる曲のみ」で構成したセットリストで、客席を盛り上げた。太いビートとリズム、JQのボーカルが作るグルーヴは“腰にクる”。「時代はも戻らない。新しい時代の幕開けにこの曲を」と披露した「NEW ERA」では客席に感動が広がっていくのが伝わってきた。


Nulbarich(Photo by 岸田哲平)

「GREEN STAGE」のトップバッターは注目のオーディション「THE FIRST」に参加し注目を集め、SKY-HI主宰のマネジメント/レーベル BMSGから今年1月にデビューしたAile The Shotaが登場。ブラックミュージックをベースにした最先端のトラックと、親しみを感じるメロディが融合した楽曲のカッコ良さが際立っていた。SKY-HIとのコラボも披露し、瑞々しくも存在感を感じさせてくれるステージを見せてくれた。石若駿率いるAnswer to Rememberはある意味、このフェスの象徴的な存在なのかもしれない。ジャムシーンを賑わす新世代のジャズミュージシャンが集結し、石若駿を中心に新しいアーティスト達のエネルギーが反応しあう「場所」でもある。その圧倒的なエネルギーを感じさせてくれる演奏で客席を唸らせた。さらにKID FRESSINO、JUAがラップで参加し、emihoiが情熱的な歌を聴かせ、トランペット黒田卓也も参加し、コラボを楽しんでいた。


Aile The Shota feat. SKY-HI(Photo by 中河原理英)


Answer to Remember feat. KID FRESSINO(Photo by 中河原理英)

SOIL&“PIMP”SESSIONSが登場すると、待ち侘びたファンから割れんばかりの拍手が沸き起こった。社長も「待ちに待ったこの瞬間」と興奮を抑えられない。6月8日に発売されるオリジナルアルバム『LOST IN TOKYO』から、ひと足先に新曲「Acknowledgement(A Love Supreme, Pt.l))「Todoroki」を立て続けに披露。踊れるジャズに客席は身を委ね、音を全身で感じている。ステージ袖ではこの日のヘッドライナー、ロバート・グラスパーがソイルのライヴを見守っている。「御大がそこにいるだけで背筋が伸びる」と社長が語り、さらに演奏に気合が入る。Awich、長塚健斗(WONK)をゲストボーカルに迎え、さらにSKY-HIとは5月25日にリリースするデジタルシングル「シティオブキメラ feat. SKY-HI」を初披露し、大きな歓声が起こった。


SOIL&PIMPSESSIONS feat. Awich(Photo by 中河原理英)

大トリは「THEATRE STAGE」でロバート・グラスパーだ。まずはDJのジャヒ・サンダンスが登場し盛り上げる。「Love Supreme」のサンプリングも使い、このフェスへの愛とリスペクトを表し、さりげなく“伏線”を回収。大歓声に迎えられ主役が登場。まずはレディオヘッドのカバー「Packt Like Sardines In a Crushd Tin Box」から。いきなり深く濃密なジャズの宇宙に招かれたような感覚になる。「No One Like You」でのジャスティン・タイソンのドラムソロは、タイトで変幻自在、圧倒的な音数を刻む人間業とは思えないプレイに、誰もが息を飲む。音が一音一音明確で、飛び込んでくる。さらに、ベースのデヴィッド・ギンヤードとの鉄壁リズムセクションが作り出すリズムに、心と体が躍る。これはジャズファンならずとも否応なく引き込まれ、感動したはずだ。

このフェスはジャズのブランディングを感じてもらいつつ、20代、30代の若い人達に音楽を楽しんで欲しいという思いが、根底に流れている。そこが他のジャズフェスと違うところだ。2日間、若い人の姿が目立った。若い人達が聴いて楽しいジャズを提供し、それを演奏するアーティストが影響を受けたアーティストの音楽を気軽に体感して欲しい、そんな思いも込められている。ロバート・グラスパーの存在がそうだ。世界最高峰の現代ジャズアーティストの世界に触れ、何かを感じて欲しいのだ。


ロバート・グラスパー(Photo by 岸田哲平)


ロバート・グラスパー(Photo by 岸田哲平)

現代ジャズの深淵な世界にひきこまれる「Let It Ride」は、新鮮な空気をたっぷり吸いながら聴いていると、細胞が喜んでいるような感覚になる。「Freeze Tag」は一緒に口笛を吹こうと、ステージから煽る。最新アルバム『Black Radio III』に収録されている、ティアーズ・フォー・フィアーズのカバー「Everybody Wants To Rule The World」は、アルバムではレイラ・ハサウェイ&コモンをフィーチャリングしているが、この日は自らがボーカルをとる。
ロバート・グラスパーとテラス・マーティンを中心にしたプロジェクトR+R=NOWの「Resting Warrior」に続いて、最後はハイエイタス・カイヨーテの「Red Room」のカバーで締めくくった。緊張とリラックス、ドープな世界とクールな時間を演出し、まるでアートを見て感じているような、約70分のステージだった。そして前日、ドリカム中村正人が言った「これが音楽、これがジャズの楽しさ」という言葉を思い出した。

ジャズファンはもちろん、ジャズ初心者の入門編として、さらにこれをきっかけにジャズを好きになるであろう音楽ファン、全ての人が満足できるのがこの『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL』だ。来年のラインナップが今から楽しみだ。

(文:田中久勝)




LOVE SUPREME presents
DREAMS COME TRUE featuring 上原ひろみ, Chris Coleman, 古川昌義, 馬場智章
WONK

2022年5月21日(土)神戸ワールド記念ホール
17:00 OPEN / 18:00 START
詳細:https://www.kobe-spokyo.jp/world-kobe/

2022年5月26日(木)東京ガーデンシアター
18:00 OPEN / 19:00 START
詳細:https://www.shopping-sumitomo-rd.com/tokyo_garden_theater/

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