Wet Legが挫折から得た学び「もう若くないなら、時間切れなバンドをつくればいい」

ウェット・レッグ(Photo by Terna Jogo)

 

「時間切れなバンド」の軽やかさ

「Chaise Longue」のMVは、ウェット・レッグがDominoと契約を交わす前に制作された。Dominoといえばアークティック・モンキーズ、ファット・ホワイト・ファミリー、ソーリーといった人気アーティストを輩出したインディーレーベルだ。ニューシングル「Angelica」とそのMV、それに加えてバンド名を冠したデビューアルバムという完璧なパッケージを提案されたふたりは、パンデミックの真っ只中にレコード会社が自分たちと契約を交わすことに驚いた。

「普通なら、A&R担当はアーティストの全体像をつかむのに数回ライブに足を運ぶけれど、私たちは一切ライブをしていなかった。でも、どうやら彼らにとってそれはあまり重大な問題ではなかったみたい」とへスターは解説する。それまで、ふたりがこれまでこなしたライブの数はわずか4回。Dominoの関係者は一度も来ていない。「少し怖かった……(ウェット・レッグは)私が心から自由に取り組むことができた唯一のもの」と彼女はリアンのほうを見やった。「たくさんの不安を経験してきたけれど、これが安全な場所だってあなたは教えてくれた。私は、あなたの言葉を信じている」

「もう安全な場所じゃないけどね」とリアンは言い添えた。




Photo by Terna Jogo

彼女にとっての不安とは何だろう? 写真を撮られることだろうか? 「ぜんぶ」とへスターは言う。「歌うこと、楽器を演奏すること、作曲すること、写真撮影、すべてに不安を感じる時がある」。ワイト島では、へスターを怯えさせるような怪しい行動をとる人はいない。だがアーティストとしてのキャリアを歩みはじめた以上、それは島中に知れわたり、即座に評価される。リアンは次のように語った。「音楽はかっこいいけど、それは過去にやったことでもあった。でも完全に諦めたり、私自身のアイデンティティから消し去ったりすることはできなかった。プロジェクトを中断してしまうと、どうしてもそんな気分になるの」

ワイト島に最初のロックダウンが敷かれると、それがもたらした孤立と無垢さは、ふたりがウェット・レッグをつくるための理想的な安全地帯となった。パンデミックが長引くにつれて、彼女らは過去を振り返りつつ、時が止まったかのように感じられる現在の立ち位置を強調する楽曲をつくることができた。デビューアルバムのジャケットには、学校の制服姿のふたりが写っている。収録曲の中には、学生時代やティーンエイジャー時代を想起させるものもあれば、少女から30代の一人前の大人になることについて歌っているものもある。これらの楽曲は、大人になる手段を持たない世代にとって、現実と子供時代がいかに似ているかを表しているのかもしれない。

「“もうすぐ28歳なのに、いまだに酔い潰れてばかり”という歌詞があるんだけど」とリアンは言う。「10年前はやたらと深酒をしていたの。いまよりも10歳若ければ、『そろそろちゃんとしないと』という幻滅や後ろめたさのようなものは抱かずに済む。でも、『Skins-スキンズ』や『ユーフォリア/EUPHORIA』のような青春ドラマを見ればわかるように、大人になるまでの期間は美化されすぎていると思う。27歳を超えた時点で、もう20歳の若者とは一緒にいられないことに気づくの。一緒にいることはできるけど、もう前ほど時間はない。時間がなくなっていく感覚だと思う。だから『もう時間切れなら、時間切れなバンドをつくればいいんだ』って思えたのはある意味笑えるというか……あれ、私だけ?」

へスターもうなずく。彼女らの音楽が軽やかな印象を与える理由はここにある。こうした軽やかさのおかげで、彼女らはおせっかいな島民たちのことを気にせずに「Wet Dream」のMVでザリガニのハサミを両手にはめて走り回り、調子外れのポストパンク風の楽曲をつくることができるのだ。




Photo by Terna Jogo

「自分で自分を判断するようなことはなかった」とリアンは続ける。「本当に大丈夫かな? と心配になることもなかった。『ま、いっか。べつに有名になるわけじゃないし』と思っていたから」。世界を旅し、アメリカでは満員御礼の会場で演奏し、自宅に戻った時は山積みの洗濯物と格闘し、フライトの合間に友人と落ち合う。リアンとへスターは、注目バンドのメンバーとして生きる術を模索中だ。息抜き代わりに誰かのジュエリーを直してあげる時間はないかと考えながら。その一方で評論家たちは、ユーモアのセンスを理由に、ほかのどのアーティストよりもウェット・レッグのデビューアルバムに心を躍らせている。

飛行機で移動していた別の日、リアンとへスターは顔を寄せ合って、カメラロールに収められた写真を見ていた。新作MVで演技に挑戦したり、オーストラリアでプロモーション活動を行ったり、BBCが毎年発表する「Sound of 2022」で2位に輝いたり、アメリカのホテルの曲がりくねった廊下を徘徊したり、ロサンゼルスで自分たちが写っている看板を見上げたり…彼…女らは、ここ半年間の出来事を現実としてまだまだ受け止めきれずにいる。「学ぶことがありすぎて、なんだか変な気分」とリアンは言う。「カメラを見ながら思ったの『どうしてこんなことになっちゃったの? ほんと、笑っちゃう』って」

From Rolling Stone UK.




WET LEG JAPAN TOUR 2023
2023年2月13日(月)愛知・名古屋CLUB QUATTRO
2023年2月14日(火)大阪・梅田CLUB QUATTRO
2023年2月15日(水)東京・渋谷O-EAST
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12763


ウェット・レッグ
『Wet Leg』
発売中
国内盤CD:ボーナストラック2曲収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12264

Translated by Shoko Natori

 
 
 
 

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