幾何学模様が語る「有終の美」 世界が認めた日本発サイケ・ロックが生まれるまで

 
『クモヨ島』と活動休止の理由

メンバーの5人はオフの期間中に日本でスタジオ入りし、『クモヨ島』のレコーディングに着手した。これまではステージ上で曲を十分に練ってからスタジオに入るというプロセスを基本にしていたが、最新作ではそれが叶わなかった。バンドはオーディエンスの反応を想像しながら曲作りをしていたというが、Kurosawaは同作が結果的に「宅録っぽい」レコードになったとしている。

「解放感はありましたね」。Kurosawaは笑顔でそう話す。

オーディエンスが目の前にいる状況を思い浮かべながら、メンバーたちと一緒に曲を書くというプロセスについて、Katsuradaは「マインドトリップしながらジャムっているみたいだった」と語っている。

過去2作では外部からコラボレーターを迎えた。2018年作『マサナ寺院群』はポルトガルのジャズマンであるブルーノ・ペルナーダスがプロデュースしており、昨年発表されたライブEP『Deep Fried Grandeur』ではシンガーソングライターのライリー・ウォーカーとコラボレートしていた。対照的に、最新作はメンバーたちだけで完成させている。

基本のラインナップに回帰した一方で、バンドのサウンドは明らかに進化している。『クモヨ島』にはリスボンで養われたファンクのカラーが色濃く現れており、特にマルチ奏者のKatsuradaによるホーンと様々なベル、そしてメロディックなパーカッションは印象的だ。新作はフラワーチルドレン的なムードが強く、ライブやEPに見られるハードでエッジーな部分はなりを潜めている。KatsuradaとDaoud Popalによるギターのトーンは、90年代のオルタナ/ファズの影響をはっきりと感じさせる。



パンデミックにより活動自粛を強いられていた間、東京で共同生活をしていた結成当時以来初めて、メンバー全員が日本に滞在していた。その時の経験は、2022年を「幾何学模様にとって最後の年」にするという決断を下すきっかけとなった。

「無期限の活動休止を決めた大きな理由の1つは、バンドとしての活動に100%集中できなくなったことです」とKatsuradaは話す。「友人どうしで始めたこのバンドに、僕らは全エネルギーを注いできました。20代の全てをこのプロジェクトに費やしたんです。メンバー全員がバンドとしての活動に、文字通り100%集中していました」

基本に立ち返ることで、彼らはKatsuradaのいう「純粋さとそこからくるエネルギー」を維持していくことの難しさを実感するようになったという。

「それがなきゃ幾何学模様じゃない、そう思ったんです」とKatsuradaは話す。

ロックダウンによって以前のように一緒に演奏できなくなったことで、彼らは先に進むべきだと悟った。メンバーの何人かは既に他のプロジェクトを始めており、KatsuradaとKurosawaがアムステルダムを拠点にしながら運営しているGuruguru Brainはその1つだ。同レーベルは今年、南ドイツの新作と日本発の「スペースロック・パワートリオ」ことDhidalah、そして「モダンなシンガポール産ファンク」のコンピレーションのリリースを控えている。自主レーベルの運営は、幾何学模様の活動にも大きな恩恵をもたらしていた。

「バンドとして優秀の美を飾りたい、そう思っています」とKatsuradaは話す。「レーベルを自分たちで運営しているからこそ、今の状況を生み出すことができたし、これからのことを実現させられるんです」

Translated by Masaaki Yoshida

 
 
 
 

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