ザ・クラッシュ『Combat Rock』40年目の再検証 崩壊寸前だったバンドの進化に迫る

 
「ヒップホップ」と「ルーツ回帰」の拮抗

4作目のアルバム『Sandinista!』(1980年)はセルフ・プロデュースで臨んだLP3枚組。レゲエやダブにますます接近する一方、ファンク、ジャズ、フォークまで取り込んだこの大作は、今でこそジャンル越境を先取りした野心作として高く評価されるようになったが、リリース当時は英19位とセールスが伸び悩んだ。しかしアメリカでは3作目『London Calling』(1979年)の27位より順位を少し上げ、24位まで上昇。批評家の反応も上々で、バンドの視線は自ずとアメリカ市場へ向いていくことになる。

セールス不振に対するテコ入れ策として、ジョー・ストラマーは初期からバンドを支えていた辣腕マネージャー、バーニー・ローズをバンドに呼び戻すが、これがバンド分裂の火種になった。バーニーはサウンド面においてイニシアチブを握っていたミック・ジョーンズと相性が悪く、ジョー寄りの人間。『Combat Rock』リリース後しばらくして起きた、ミック脱退事件にも当然絡んでいる。

サウンド的な転機は、81年5月〜6月にかけてニューヨークで行なった連続公演。サポート・アクトに選んだグランドマスター・フラッシュ&フューリアス・ファイヴは観客からブーイングを浴びるという憂き目に遭ったが、この時期にグラフィティ・アーティストでラップもするフューチュラ2000、ファブ・ファイヴ・フレディなどヒップホップ勢と交流を深めた。また、バンドを表敬訪問したビート詩人、アレン・ギンズバーグをステージに上げることに成功、クラッシュの伴奏でギンズバーグがポエトリー・リーディングを披露するという奇跡的な共演も実現している。こうした“現場での交流”から、フューチュラ2000のラップをフィーチャーした「Overpowered By Funk」や、ギンズバーグの語りをフィーチャーした「Ghetto Defendant」といった、『Combat Rock』を彩るコラボ曲が生まれたわけだ。

公演終了後もニューヨークに残ったメンバーはレコーディングを進める。かの地で得た刺激をたっぷり吸収し、『Sandinista!』のファンク感を残しながらヒップホップへの接近も感じさせる名曲「This Is Radio Clash」が誕生、81年11月にリリースされた。これもセールスは英47位と振るわなかったが、同時代の音楽を飲み込みながら前進を続けていたクラッシュの創造性がいよいよピークに達したのを示す、重要な1曲だ(後述のディスク2『The People s Hall』収録)。この路線で突き進んでいたら、次のアルバムは斬新なエレクトリック・ファンク・ロックの傑作になったかも。しかし、『Combat Rock』がそういう方向性のアルバムにならなかったのは何故か? ヒップホップにのめり込んでいくミック・ジョーンズとは対照的に、ジョー・ストラマーは『Sandinista!』で萌芽していたルーツ・ミュージックへの回帰モードに入っていたのだ。


フューチュラ2000が当時を振り返った動画



もともと5作目のアルバムは『Rat Patrol From Fort Bragg』と仮題がつけられた17曲入りのLP2枚組になる予定で、ミック・ジョーンズによってミックスされた試作バージョンが出来上がっていた。しかしこれを聴いたジョー・ストラマーは「素人が作ったミックスだ」とけなし、リリースを拒否。「1枚に再編集すべき」と譲らず、「ミック、お前プロデュースに向いてないんじゃないか」と言い放ってミックを怒らせている。すでにバンド外でエレン・フォーリーやイアン・ハンターの作品を手掛け、プロデューサーとしての活動を始めていたミックに対して、いくらか嫉妬の念があったのかもしれないが。それからずっと後の2000年代、リバティーンズのプロデューサーとして再び注目を浴びたミックを見て、ジョーの胸中にはどんな想いが渦巻いていたのだろう……と考えずにいられなくなるエピソードだ。

後年ブートレッグで流出した音源を聴くと、ジョーが2枚組での発売を拒んだ理由が何となくわかる。『Rat Patrol From Fort Bragg』はセールス不振に終わった『Sandinista!』の延長戦上でジャンル混合の冒険を続けている印象の大作。バラエティ豊富でカラフルだが、セールス回復を意識して「このままでは前作の二の舞になる」と感じたところがあったのかもしれない。ジョーが持ってきた「Know Your Rights」(邦題:権利主張)はロカビリーのビートを取り入れた硬質な曲で、全体の流れからはやや浮いている。この曲のベースの方向性を巡って、ミックとベーシストのポール・シムノンが衝突する場面もあったそうだ。


 
 
 
 

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