ザ・クラッシュ『Combat Rock』40年目の再検証 崩壊寸前だったバンドの進化に迫る

 
「4人のクラッシュ」最後の輝き

このアルバムの運命を大きく変えたのが、映画『スパークス・ブラザーズ』にもスパークスの元プロデューサーとして出演しているマフ・ウィンウッド(元スペンサー・デイヴィス・グループ、スティーヴ・ウィンウッドの実兄)。当時CBSでA&Rを担当していたマフの提言で、アルバムのリミックスをベテランのグリン・ジョンズ(ローリング・ストーンズが出演した映画『ワン・プラス・ワン』や、ドキュメンタリー『ザ・ビートルズ:Get Back』に登場するエンジニア/プロデューサー)に委ね、ジョーの要望通り1枚のアルバムにまとめることになった。ミック・ジョーンズの面目は丸つぶれだが、このときバンドを推進しているのはジョーとバーニー・ローズであった。

バンドに巨額の富をもたらした「Rock The Casbah」を作曲したのが、実はドラマーのトッパー・ヒードンであったことは、熱心なファン以外にはあまり知られていないだろう。トッパーは他のメンバーが誰もエレクトリック・レディ・スタジオに来ない間の待ち時間に、この曲を構築してラジカセでデモを録音。これを聴いて驚いたジョー・ストラマーが歌詞を乗せ、誰もが知っているあの形へと変貌していった。ジョーは後年、このときのトッパーについて「20分でベース、ドラム、ピアノなどを全部組み立てたんだ。全部一人でだぜ」と絶賛。しかしこの曲をシングルにすることにミック・ジョーンズが難色を示し、「少しあいつを説得しなきゃダメだった。あいつからすれば少しコメディ・タッチだと思ったのかな」と述懐している。この曲でソングライターとしても存在感を示したトッパーだったが、長引くドラッグ依存が原因で、新作の発売が目前に迫った82年5月10日、バンドから去ることになる。

ミック・ジョーンズが主役の「Should I Stay Or Should I Go」は、バンド脱退について書いたものではないとミック自身が明言。元恋人のエレン・フォーリーに向けて書いた可能性が高い。しかしジョーはこの曲の歌詞を聴いて、バンドに対する決別の歌として受け止めたという。そこまで二人の関係が悪化していた、ということだろう。この曲のレコーディング中、ミックは他のメンバーとほとんど会話をしなかったとポール・シムノンは証言している。




終わりへ向かって転がり始めていたバンドにも、最高に輝く瞬間がある。「Straight To Hell」はミックが何となく弾いていたギターのフレーズを膨らませて生まれた曲で、ここにトッパー・ヒードンがボサノヴァ風のビートを合わせるという機転をきかせた。トッパーはジョーにレモネードの瓶を渡し、タオルでくるんでバスドラムの前方を叩くよう指示、これがビートに独特な立体感をもたらしている。ジョーが宿泊していたホテルで徹夜して書き上げたという歌詞も、浮遊感のあるトラックに促されたのか、想像力を存分に羽ばたかせている。詞の連を順に追うと、イギリス→クリスマスのヴェトナム→ジャンキーだらけのアメリカへと、イメージが飛び移っていく様子がわかるはず。「4人のクラッシュ」の最後の名曲と言っていいこの「Straight To Hell」は、真冬のニューヨークで録音された。

その後ニュー・アルバムの作業を一旦中断、ツアーに出た4人は1982年の1月〜2月にかけて日本公演を行なった。このとき新作から、いち早く「Should I Stay Or Should I Go」や「Know Your Rights」を披露している。その後、ニュージーランド、オーストラリア、香港、タイを周ったバンドは、バンコク近郊の線路上で『Combat Rock』のジャケット写真を撮影。撮ったのは『London Calling』と同じく、クラッシュを追い続けたペニー・スミスだ。



今回のエディションで新たに追加されたディスク2『The People s Hall』は、未発表曲を含むレア音源集。アルバムのタイトルは今回初公開となる「Know Your Rights」の荒々しいバージョンを録音した、フレストニアのピープルズ・ホールから取られたものだ。フレストニアはもともとはロンドンのハマースミス区に属していた地域で、住民たち(ほとんどが不法占拠)が共和国を名乗って活動。居住者に芸術家や音楽家も多かったこの地域は文化的な拠点になっていて、『Combat Rock』のリハーサルと一部の録音もここで行われた、という縁がある。

また、前述の幻のアルバム『Rat Patrol From Fort Bragg』に収められる予定だったトロピカル風味のエレクトロ・ファンク「The Fulham Connection」(ファンには「The Beautiful People Are Ugly, Too」のタイトルで知られている)も、『The People s Hall』で聴くことができる。この曲はトッパー・ヒードンのソロ・シングル「Leave It To Luck」(1985年)のB面として世に出たインストゥルメンタル「Casablanca」のオリジナル。実はジョーの歌入りで出来上がっていて、パーカッションをたっぷり入れたゴージャスなトッパー版とはまるっきり違うアレンジだった。また、今回発掘されたモータウン・ビートが痛快な未発表のインストゥルメンタル「He Who Dares Or Is Tired」は、『Rat Patrol From Fort Bragg』とは方向性がやや異なるが、ドラマーとしてのトッパーの魅力がよく出ていて思わず聴き惚れる。

もうひとつ注目すべきレア曲が、フューチュラ2000がザ・クラッシュをバックに従えて1982年にセルロイド・レコーズからリリースしたシングル、「The Escapades Of Futura 2000」のオリジナル・ミックスである「Futura 2000」(プロデュースもザ・クラッシュ名義)。バンドを起用していたシュガーヒル・レコーズの作品などをミック・ジョーンズなりに研究したと思われる演奏は、未聴の人には新鮮に聞こえるはず。彼がクラッシュ脱退後にドン・レッツらと立ち上げるビッグ・オーディオ・ダイナマイトにも繋がっていく、興味深い曲だ。フューチュラ、セルロイド、そしてクラッシュという強烈な個性の三つ巴感を堪能して欲しい。









ザ・クラッシュ
『Combat Rock / The People’s Hall』(40周年記念盤)
2022年5月25日リリース
Blu-spec CD2 解説・歌詞・対訳付
定価:¥3,300+税
再生・購入:https://SonyMusicJapan.lnk.to/THECLASH_cbrtph 

DISC 1:Combat Rock
1. Know Your Rights
2. Car Jamming
3. Should I Stay Or Should I Go
4. Rock The Casbah
5. Red Angel Dragnet
6. Straight To Hell
7. Overpowered By Funk
8. Atom Tan
9. Sean Flynn
10. Ghetto Defendant
11. Inoculated City
12. Death Is A Star

DISC 2:The People s Hall
1. Outside Bonds
2. Radio Clash
3. Futura 2000
4. First Night Back In London
5. Radio One – Mikey Dread
6. He Who Dares Or Is Tired *
7. Long Time Jerk
8. The Fulham Connection
9. Midnight To Stevens
10. Sean Flynn
11. Idle In Kangaroo Court
12. Know Your Rights *
*Previously unreleased


ザ・クラッシュ
Combat Rock』(40周年記念Clear Vinyl)
2022年5月25日リリース
完全生産限定盤 ソニーミュージックグループ自社一貫生産アナログレコード 解説・歌詞・対訳付
定価:¥3,800+税
購入:https://sonymusicjapan.lnk.to/THECLASH_cbr

 
 
 
 

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