s-kenと高橋一(思い出野郎Aチーム)が語る、パンクを通過したダンスとレベルミュージック

高橋一:いやいや、恐れ多いです(笑)そんな中で、s-kenさんのニューアルバムが出るじゃないですか。ベテランの人が久々にアルバムを出したっていう感じが全然ないというか、フレッシュな何かがある。でも、円熟されているグルーヴもあるっていうのが、僕らからすると、いくつになってもこういう尖ったものが作れるんだなと勇気をもらいました。どうやって歌詞書いているんだろうと思ったんですけど。

s-ken:普通にiPhoneにメモしていますよ。僕は大学を出てすぐはシステムエンジニアの仕事についたんですけど、自分が作った曲を人が歌ってくれるなんて素敵だと思って。ドロップアウトして、音楽の道に進んだ経緯があるんです。だから作詞、作曲はまず前作を超えなきゃいけないとずっと繰り返してきたんですが今回は5年前の『Tequila the Ripper』以上のものができるのかなって心配はあったんです。ギターを抱えて曲を作るぞみたいなときって、何も浮かばないんですよ最初は。でもね、30分くらいダラダラやってくると、いろいろ浮かんできて。急に元気が出てきて歌詞と同時にメロディが出てくるときもあるし、メロディができた後から歌詞をつけることもありますね。

高橋一:どちらもあるんですね。

s-ken:今回はこんなこともあった。「メロンとリンゴとバナナ」って曲は、犬を連れて池上本門寺の山を登っているときに、ふとこのフレーズが思い浮かびました。あわてて歩きながら録音するんでiPhone に向かって歌い出したらすれちがうヒトから危ないジジイと思われてね。s-kenにしてはかわいらしい曲でしょ。ジジイの風来坊が僕の好きなフリーマーケットや青空市場をふと通りがかった物語にしたらどうなるんだろうって作り出した。4番まで全部頭が「メロンとリンゴとバナナ」で始まってる。日本の曲で頭に印象深いキーワードが来る曲はあまりないんだよね。ビートルズは、「ミッシェル」「イエスタデイ」「ヘイ・ジュード」とかみんなそうなんだけれど。思い出野郎Aチームの「朝やけのニュータウン」も、頭からいきなり〈朝やけのニュータウン〉で始まるじゃない? あれはどうやって作ったの?

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高橋一:基本的にはメンバーの誰かがリフを持ってきて、それをセッションしてこね回してだんだん曲にしていくんです。歌詞は大体後なんですけど、『Share the Light』の場合は、どの歌詞がどの曲って考えず、まず散文みたいなものを書きました。そこからこの曲に合うかもって言葉を持ってきて、もう1回再構成したので、すごく大変で。

s-ken:そういう方法であんないい曲ができるってすごいよね。ホットボンボンズの場合は、僕が全部曲を作って基本のアレンジもして、その後にメンバーにDEMO渡すんだよね。「どんな感じで演奏したらいいですか?」って言われたら「これはこういう感じ」って伝えて。そうすると、思いもよらないさらにいい演奏してくれたりってこともあるんだよ長年やっていると。思い出野郎Aチームは、バンドの一体感がありますよね。

高橋一:良くも悪くも、うちは誰かが頭からおしりまで作ってくることはあまりなくて。モチーフが1個あったら、みんなであーだこーだ言いながら作ります。だから、すごい時間がかかります。こねくり回していくうちに、思いもよらぬ方向になっていって。

s-ken:今回のアルバムに「野良犬が消えちまった」って曲があるんだけど、あれは消えちまったシリーズとして思いついてしまって。「野良犬が消えちまった」、「マドロスが消えちまった」、「路地裏も消えちまった」って3つのショートストーリーを1曲の中に組み組むことできるかという部分が1番苦労したね。「野良犬が消えちまった」って曲だったら、全部「野良犬が消えちまった」って歌詞にするのが普通なんだけど、聴いた人は野良犬の歌だと思ったら2番目に全然違う。3番も違う、消えちまった三部作だなっていうのが後から分かるわけじゃない? やってみたらやっぱり大変で、まず「野良犬が消えちまった」のAメロの部分を何小節にするか悩んだね。

高橋一:単純にs-kenさんの書いた歌詞をまとめた詩集を読みたいです。いつも歌詞を聴くと、これどうやって書いているんだろうって思うんですよね。今の消えちまった三部作も、そもそも思いつかないですからね。消えちまった三部作なんて(笑)。曲もあいまってs-kenさんの頭の中ってどういう回路なんだろうって聴く度に思いますよね。

Rolling Stone Japan 編集部

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