ヒップホップはポップになり得るか? 歴史的フェスとなった「POP YOURS」を総括

BAD HOP(Photo by cherry chill will.)

国内最大規模のヒップホップフェスティバル「POP YOURS」が、さる5月21日(土)と22日(日)、千葉・幕張メッセ国際展示場9〜11ホールで開催された。書籍『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』が話題の文筆家・ライター、つやちゃんはこの2日間にどんな意義を見出したのか。

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“2020年代のポップカルチャーとしてのヒップホップ”――。

今回、国内最大規模として盛大に開催されたヒップホップフェス「POP YOURS」が掲げたメッセージである。数十年の歴史を重ねてきたこの国のヒップホップに対して、本イベントはあえて“2020年代の”と年代を強調し、さらには“ポップカルチャーとしての”という含みのある言葉を添えたステートメントを発表した。他に考え得る選択肢として、たとえば“長らく続くストリートカルチャーとしてのヒップホップ”という、多少の郷愁と安心感を潜ませた一文を書くこともできただろう。しかし、あくまで「POP YOURS」は“2020年代のポップカルチャーとしてのヒップホップ”と主張したのだ。

たかが一文、と思うかもしれない。だが、フェスや大規模イベントにとって一貫した確固たる思想がどれだけ重要か、今の私たちは知っているはずだ。そして「POP YOURS」は、素晴らしい出演者たちが“2020年代のポップカルチャーとしてのヒップホップ”を表現してみせることで、歴史に残るイベントとして盛大に幕を閉じた。現在のヒップホップの裾野の広さと懐の深さ、それらベクトルが多方面に向くことで、明らかにシーンが変わってきている事実が証明されたように思う。

歴史を見届けた現地の観客は、大半が20代を中心としたユース層だった点も興味深い。予想はしていたものの、実際にその光景を目の当たりにし衝撃を受けた人も多かっただろう。近年全国の無数のクラブで地道なライブを行ってきたヒップホップを体現する者、そこに集うリスナーたちが、一堂に会し集結されることで今起きている大きなうねりが可視化された。ただの音楽イベントではない、これはカルチャーなのだ――しかも今みるみる拡大している現在進行形としての。公の場で、そういったコンセンサスを得ることができた重要な機会だったとも感じる。

では、それらカルチャーがいまどのような裾野の広さと懐の深さを持ち合わせているのか? 多方面に向かっていた多彩なベクトルを、大きく4つの切り口で追っていきたい。



1. ヒップホップゲームの外部から

目に見えないルールの中でし烈な争いを展開するヒップホップゲーム、そのフィールドからやや外れたところからゲームへの侵入を図るべく好演を見せた出演者たち。いわばゲームから弾かれているラッパーたちの逆襲とも言える迫真の演技が印象に残った。一日目のトップバッターを飾ったdodoは、一般的に想起される画一的なヒップホップのショーのイメージからはかけ離れた、ピースフルなステージを披露した。数々のヒットナンバーで畳みかけ、「I’m」では会場を一つにする。かつて、ディスを通してのいざこざで舞台から一度降りたこと、それら蘇る記憶。独自のキャリアを積んできた男が、最後は「kill more it」で自虐的に“キモい/キモい”と叫び続けステージを去っていったのだ。ヒップホップ・ボースティングに対する批評性を発揮することで状況を逆手に取る、dodoらしい戦い方に胸を打たれた。


dodo(Photo by cherry chill will.)

SKY-HIも同様である。他のフェスであればヘッドライナークラスを務めるかもしれないアーティストが、改めてヒップホップゲームに挑むべくラップスキルを前面に押し出したナンバーで、午前中の枠で勝負に出ていた。ピーナッツくんにも触れないわけにはいかない。ネタ消費という、自らに課せられた運命と戯れつつも「面白がられるわけではなく、ちゃんとカマしにきましたから!」と宣言し、多くの観客を沸かせた。トラップの重低音が会場中に鳴り響く。SKY-HIのラップスキルも、ピーナッツくんのビートも、それだけ聴くとヒップホップのど真ん中であり、優れたクオリティを誇っている。だからこそ、彼らは自信を持って真正面からゲームに挑む。苦難を乗り越えたうえでの彼らの真摯な姿勢に対して、それぞれ反応の大小はあったものの、少なくとも会場でアンチを唱える者はいなかった。


SKY-HI(Photo by Jun Yokoyama)


ピーナッツくん(Photo by cherry chill will.)


2. ヒップホップゲームのボトムから

今回、両日とも“NEW COMER SHOT LIVE”と称して新世代のラッパーたちがショーケースされた。初日のCandee、CYBER RUI、JUMADIBA、Sound’s Deli、二日目のeyden、homarelanka、MFS、Skaaiといった8組である。特にCYBER RUIはこれまでの作品で設計していたリッチな音響が巨大な空間で映えており、Sound’s Deliはメンバーそれぞれが多方向に向かいラップを届けつつもクルーとしてのグルーヴを失わず、ともに特筆すべき素晴らしいパフォーマンスを見せていた。


CYBER RUI(Photo by Jun Yokoyama)


Sound’s Deli(Photo by Yukitaka Amemiya)

早い時間帯の出演者では、一日目のDADAと二日目のFuji Taitoも鮮烈な印象を与えることに成功した。この二人に限らずだが、やはりTikTokはじめSNSでバイラルヒットしている曲の盛り上がりは凄まじく、DADAの「High School Dropout」、Fuji Taitoの「Crayon」は会場の一体感を作り、多くの観客がステージに釘付けになっていた。DADAはAZUを、Fuji TaitoはBRIZAメンバーを引き連れ仲間とともに戦う。ゲームの序列を揺るがすような、地方コミュニティ発の確かな才能がボトムからめきめきと力をつけのし上がってきている。今のヒップホップシーンの新陳代謝が好循環でスピーディに進んでいる好例だった。


DADA(Photo by Jun Yokoyama)


Fuji Taito(Photo by Jun Yokoyama)

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