ヒップホップはポップになり得るか? 歴史的フェスとなった「POP YOURS」を総括

3. ヒップホップゲームの背後から

現行のシーンと共振しつつも、リスペクトされる対象として素晴らしい表現を届ける――その存在感と熟練の技で「POP YOURS」を背後から支えていた魅力あるラッパーたちもインパクトを与えた。たとえばそれは一日目のSALUであり田我流であり、PUNPEEであり、二日目のMONJUであり、5lackであり、BIMである。それぞれがやりたいことを自由に追求することで多様な音楽の魅力を伝えつつ、若い世代への敬意も欠かさない。SALUは「これから日本のヒップホップは凄いことになる。もっともっとでかくなる。みんなは証人になる。ここに来ている皆さんリスペクトです」とMCで語っていた。


SALU(Photo by cherry chill will.)

一日目のヘッドライナーとして車に乗り登場したPUNPEEの、作りこまれているが肩の力が抜けたエンタメショーは会場の空気をあたたかく包んでいた。どちらかというとストイックでダークな世界観のラッパーが多かった二日目と比較し、一日目の空気をユーモラスで対照的なものに作り上げたのはPUNPEEのキャラクター、それを“アリ”にするスキルの成せる業だったと思う。フリースタイルで「今日は声出せないけどヒップホップは元々声なき者のもの」と歌い、一方で「俺もYZERR君にもっと行けるって言われたい」とAwichのラインを引用しつつ下の世代を敬うスタンスも忘れない。同様の意味で、二日目のBIMもコミュニティの多彩な人物を振り向かせる強い求心力を見せていただろう。ギター・竹村郁哉(Yogee New Waves)、ベース・Shingo Suzuki(Oval)、ドラム・So Kanno(BREIMEN)、キーボード・TAIHEI(Suchmos)という豪華な面々をバックに、数々のヒットナンバーで沸かせた彼のステージはハートフルなものだった。


PUNPEE(Photo by Yukitaka Amemiya)


BIM(Photo by Jun Yokoyama)

MONJUや5lackは、ラップとビートの戯れ、その硬質な音の響きこそがヒップホップの神髄であると語っているようだった。その思想で言うならば、キャリアとしては2010年代半ば以降のデビュー組ながらも、90’sヒップホップへの憧憬を渋いラップで畳みかけ表現したKANDYTOWNにも同様のスタンスを感じた。純粋なるラップの楽しさに身を任せていたVaVaにJJJ、C.O.S.A、Daichi Yamamotoといった面々もそう。個人的には、めくるめくラップでひたすら押していくシンプルなステージを披露した¥ellow Bucksにも真摯なラップ愛を嗅ぎ取った。どれだけトレンドが移り変わろうと、そこにビートがありラップを乗せさえすればヒップホップが生まれる。KANDYTOWNがここぞとばかりに展開したウータン・クランの「C.R.E.A.M.」使いはそれを証明していたし、ヴァイブスさえあれば小さい箱のグルーヴを幕張メッセでも再現できることを知らしめた。


MONJU(Photo by Yukitaka Amemiya)


KANDYTOWN(Photo by Jun Yokoyama)


¥ellow Bucks(Photo by Daiki Miura)


4. ヒップホップゲームの頂上で

2020年代のいま、ゲームを司りながら頂点にいるラッパーたち。一日目、OZworldの安定感のあるステージは本当に素晴らしかったし、LEXとJP THE WAVYは次から次へとヒット曲を繰り出した。会場は総立ち、異常とも言える熱気に包まれたパフォーマンスは、次の瞬間からその興奮がSNSにポストされインターネット中を駆け巡る。「POP YOURS」では多くのラッパーがリリースされたばかりの曲/近々リリースする曲をお披露目したが、LEXの「大金持ちのあなたと貧乏な私」とJP THE WAVYの「Mango Loco」は、新曲でありながらも皆がリリックを歌えており、現在の二人の人気を物語っているように感じた。彼らによる「なんでも言っちゃって」、さらにOZworldも含めた豪華マイクリレー曲となった「WAVEBODY」は、一日目のハイライト。JP THE WABYは頂上からこう語る。「SALUが俺を引っ張ってくれて俺がLEXを引っ張った。できれば3人でセッションしたかった」。


OZworld(Photo by cherry chill will.)


LEX(Photo by cherry chill will.)


JP THE WAVY(Photo by Daiki Miura)

二日目は、kZmやTohji、Awich、そしてBAD HOPらが頂点の座にふさわしい迫力あるパフォーマンスで場を制圧した。kZmのステージからはもはやロックに接近するような疾走感あふれるノリを感じたし、TohjiのマイペースなMC含めた表現はやはり唯一無二であった。EDMかのごとくドロップでの盛り上がりを見せた新曲で、若者が盛大に沸く。何という熱狂的な光景か。

Awichの劇的な演出には多くの観客が涙しただろう。ややもするとベタ性ぎりぎりの際どいところで展開されるとも言えるそれら表現は、しかしAwichの覚悟と使命からなる歌とラップにより、決して安易なドラマに流されることはない。この規模の会場で、一瞬一瞬の緊張感を弛緩することなく立ち上がらせていく尊さ。情感にたっぷり浸された会場だったがゆえに、その流れでヘッドライナーを務めるBAD HOPにとってはかなり難しい空気だったに違いない。けれども、クールかつ痺れる表現でそのムードを刷新していった彼らのパフォーマンスはやはり圧巻の一言であった。会場全体に響き渡る地響き、圧倒的な存在感。全く隙のない、完璧な幕引きだったと思う。


kZm(Photo by cherry chill will.)


Tohji(Photo by Daiki Miura)


Awich(Photo by cherry chill will.)

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