ノラ・ジョーンズ独占取材 デビュー20周年、今こそ明かす『Come Away with Me』制作秘話

 
「Don’t Know Why」と過去の再発見

―では、ここから『Come Away with Me』スーパー・デラックス・エディションについて、お聞きしますね。聴いて驚いたし、興奮しましたよ。これほど高いクオリティの未発表曲が、まだこんなにたくさんあったのかと。DISC2とDISC3に収められた数多くの未発表曲は、いつか世に出してみんなに聴いてもらいたいと前々から思っていたのですか?

ノラ:そんなにちゃんとは考えていなかった。リリースされていない多くのいい録音曲があることは認識していて、特にクレイグ・ストリートとやったセッションの曲は、いつかリリースされる日が来るんじゃないかなと思っていたけど。10周年のときにレーベルから「何かやらないか」と言われて、これをリリースすることも検討したんだけど、「やっぱり今じゃないな」って思ったのね。そのときは『Little Broken Hearts』(2012年4月発売の5作目)を出そうというときでもあったから。で、そこから10年経って、今回はタイミング的にもちょうどいいときだと思ったの。1stアルバムからだいぶ時間も経っているし、改めて聴き直して、バランス調整をし直したら十分いい作品になるだろうと思えた。新鮮な気持ちで見直すことができたし、出来にはすごく満足しているわ。



―内容についてはこのあと聞いていきますが、その前にまず、あなた自身が書かれたセルフ・ライナーノーツがとてもよかった。当時のあなたの心の動きが細やかに伝わってくる優れた文章だと思いました。こんなふうに過去を振り返ったことは今までなかったのでは?

ノラ:そうね。何か書いてくれと言われて、そんなに大したことじゃないと思って書くことにしたんたけど、結果的に本になるくらいの文章量になってしまった(笑)。記憶が定かじゃないところもあったので、ジェシー・ハリスとクレイグ・ストリートにも読んでもらって意見をもらったの。それぞれ私とは違う記憶があって、面白かった。こんなふうに過去を振り返るのは、ちょっとしびれる体験だったわね。

―その文のなかでも触れられていますが、あなたが初めてオリジナル曲を書いたときのひとつが「Come Away With Me」で、それは古いエレクトリック・ギターで書かれたとのこと。書いたときの手応えは覚えていますか?

ノラ:ええ。素晴らしい気分だった。ようやくちゃんと表現できた曲を書けたのが嬉しかったわ。

―ギターではなくピアノを弾いて作っていたら、その先の運命も変わっていたと思いますか?

ノラ:それはどうかわからないけど、ギターがそんなに上手く弾けなくて、そんなにたくさんのコードを押さえることもできなかったから、「Come Away With Me」はシンプルな曲になったの。当時はピアノで作曲するのが難しかった。恐らくピアノという楽器を私が知りすぎていたから。ギターは上手く弾けなかったので、それだけに深く考えることなく、シンプルに作れたのね。



―ソーホーのマーサー・ストリートにあるスタジオ「ソーサラー・サウンド」で3日間、ジェシー・ハリス(Gt)とリー・アレキサンダー(Ba)とダン・ライザー(Dr)、それからアダム・ロジャース(Gt)、トニー・シェアー(Gt)、タブラ奏者のヴィクラム・ゴッシュも迎えて行なわれた初セッションでの録音ブツが、「デモ&ファースト・セッションズ」と題されたDISC2に収められています。そのセッションにどんな気持ちで臨んだか、覚えていますか?

ノラ:そのときには、(ジェシー・ハリス、リー・アレキサンダー、ダン・ライザーと組んだ)自分のバンドのサウンドがいい感じに固まってきていたこともあって、素晴らしいセッションだと思えた。ワクワクしたし、楽しかったし、恐怖心なんて全然なかった。自分にとってすごくいい時代だったわ(笑)。

―そのファースト・セッションで最初に録ったのが「Don’t Know Why」ですよね。ジェシー・ハリスはそのセッションを通じてあの曲を完成させたんですか? それともそれ以前に書いてとっておいた曲だったんでしょうか?

ノラ:確かじゃないけど、既に書いてあった曲だと思う。どれくらい前に書いたかは、わからないけど。私は、好きではあったけど、レコーディングするまでは特に記憶に残る曲でもなかった。ギグで演奏したこともなかったしね。レコーディングのときは譜面があって、歌詞を見ながら歌ったのを覚えているわ。なんとなく演奏した、というような感じだった。



―それが後に世界的なビッグ・ヒットとなり、あなたの代表曲にもなったのだから、わからないものですよね。

ノラ:ほんと、曲って生き物なんだなって思う。だからその時々で思い入れも変わっていく。この曲にもほかの曲にも言えることだけど、若くていろんなことを学んでいる時期に出会って、そのときはそのときなりに共感して。それから自分が歳を重ねるなかでいろんな経験を積んで、そこでまた違う形で曲に共感できたりするものなの。

Translated by Hitomi Watase

 
 
 
 

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