ノラ・ジョーンズ独占取材 デビュー20周年、今こそ明かす『Come Away with Me』制作秘話

 
クレイグ・ストリートとの再会

―このDISC2には、これまで世に出なかったことが不思議なくらいに素晴らしい未発表曲もありました。「Just Like A Dream Today」などは『Come Away with Me』に収録されなかったのが勿体なく思えるくらいで。「本当はこれも1stアルバムに入れたかった」というような曲もあったりしますか?

ノラ:1stアルバムに入っている曲は、私が好きだったから収録したんだと思う。確かにファースト・セッションで録った数曲とアウトテイクにも本当に美しいと思えるものがあるわ。そうね、私もジェシーが書いた「Just Like A Dream Today」は好き。「The Only Time」も好き。もちろんデューク・エリントンのスタンダード曲なんかも好きだから録音したわけだしね。だから、今回は録った曲のほとんどを入れることにしたの。ほんの数曲、今回も見送った曲があるにはあるんだけど。でもほとんどの曲をこうして世に出せたのは、とてもエキサイティングなこと。



―スーパー・デラックス・エディションのもう一つの目玉は、クレイグ・ストリートをプロデューサーに迎え、ビル・フリゼール(Gt)、ケヴィン・ブライト(Gt)、ブライアン・ブレイド(Dr)、ケニー・ウォルセン(Dr)、ロブ・バーガー(accordion & organ)らと録音されたDISC3です。ライナーノーツによれば、カサンドラ・ウィルソンの『New Moon Daughter』を気に入っていたあなたが、「クレイグ・ストリートに会えるだろうか」とブルース・ランドヴァル(ブルーノート・レコード社長)に頼んで実現したレコーディングだったとか。『New Moon Daughter』のようなプロダクションを求めてのことだったんですか?

ノラ:そういうわけではない。『New Moon Daughter』をすごく好きだったからクレイグのことを好きになったし、いくつかあのアルバムの要素を求めていたところも確かにあったけど、あの通りにしようなんてことは思ってなかったわ。そもそも『New Moon Daughter』にはピアノが入っていないし。私はピアノ・プレイヤーだから、当然同じようなプロダクションにはならないとわかっていた。でもアコースティック楽器の響かせ方はいいなと思っていたの。あのアルバムでプレイしていたミュージシャンもいいなと思っていて、特にケヴィン・ブライトの弾くギターが気に入っていた。それで彼を起用したのよ。彼が参加してくれたことで、すごくいい効果を出せた。彼のアレンジによるギター・パートとかね。とはいえ、そのレコーディングは結局、スタート地点に過ぎなかったわけだけど。



―クレイグ・ストリートを中心にしたレコーディングは、とてもエキサイティングなものだったようですが、ミキシング・セッションで音を聴いているうちに疑問が首をもたげるようになったとのこと。そのとき、どのような違和感を持ったのか、覚えていますか?

ノラ:ソーサラー・サウンドで行なったファースト・セッションのデモ・テープをかなり気に入ってはいたんだけど、何か違うことも試してみたくなって、それでクレイグとのレコーディングに臨んだのね。で、実際楽しかったし、自分の好きなミュージシャンたちが自分のアルバムのために演奏してくれていることに興奮したんだけど、そのセッションを完成させるべく音を聴いているときに、確かに素晴らしい出来になった曲もあるけど、やりすぎてしまった気がした曲がいくつかあったの。もともとやろうとしていたことから離れすぎてしまったというか。それで、素晴らしい仕上がりだと思えた3曲は1stアルバムに残したけど(「Seven Years」「Feelin’ the Same Way」「The Long Day Is Over」)、多くの曲は使うのをやめることにした。

―あなた自身、「何かが違う」と感じ、ブルース・ランドヴァルも却下したそれらの曲を、20年ちょっと経った今、どうして発表しようという気持ちになったのですか?

ノラ:ブルースが拒否したのは、初めて私というミュージシャンを世の中に広めるにあたって、クレイグとのセッション音源のダークなイメージが適切ではないと判断したからだけど、現時点の私のキャリアで言えば、そのセッションでこんなに多くのマテリアルが出来上がったのが特別なことのように思えたの。そのセッションを経た結果、ああいう1stアルバムが出来上がって、それが大成功した。つまりそこに至るまでのセッション・マテリアルだったということ。改めて聴き返したら、クレイグとのセッションの曲は確かにほかのものとは印象がだいぶ違うけど、それはそれで美しい仕上がりになっていて、それだけでまた違うアルバムとして聴いてもらう価値があるなと思ったので、今回出すことにしたわけ。

―当時とは違う印象で聴き返すことができた。

ノラ:美しい作品だと思ったのよ。それと、よかったのは、作品化するにあたってそのセッション音源のバランスを調整し直すことができたこと。20年前のミックスは私の声の音量が小さめで、ギターの音が大きかった。そこを修正するなかで、改めて特別なレコーディングだったことがよくわかった。だから何も後悔してないわ。当時のアルバムの方向性は、なるべくしてなったものだと思うし。それによってクレイグとのセッションは当時は世に出せなかったけど、今回また彼と取り組めたのがよかったし、彼も完成させることができてよかったと思っているはず。



―クレイグとの久々の再会はいかがでしたか?

ノラ:実は、クレイグとは何度か会っていたの。あれから20年会ってなかったわけではなく、要所要所で会っていたし、友達でい続けた。5年くらい前にも私のショーを観に来てくれたし、ある午後は一緒に遊んだりもしたし。ただ、あのとき何が起こっていたのかについては、友達でありながらちゃんと詳しく話すことができていなかったので、それを話せてよかったわ。成功のなかで過去について話す機会がなく、全てが忘れ去られようとしていた。時間は経ってしまったけど、過去のことをちゃんと説明して、あのとき一緒に始めたことを無事に終わらせることができて本当によかったと思う。

―クレイグを中心にしたセッションをまとめたDISC3のなかで、特に気に入っている曲、自信を持ってみんなに聴かせたい曲は、どれですか?

ノラ:全部気に入っているわ。本当に。1stアルバムに入っている、みんなが聴き馴染みのある曲も、違うバージョンで聴けるのは面白いと思うし。でも、これまでリリースされず、今回初めて聴いてもらえるようになった曲もいくつかあるので、それをぜひ聴いてもらいたい。例えば「Fragile」という曲。私の友人であるノーム・ワインスタインが書いた曲なんだけど、このレコーディングはとても気に入っている。ビル・フリゼールのギターもすごくいいの。

Translated by Hitomi Watase

 
 
 
 

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