ポップスターたちが隠したい過去 ロシア新興財閥との蜜月

左からダーシャ・ジューコワ氏とロマン・アブラモヴィッチ氏。カリブ海サン・ベルテルミー島でアブラモッヴィチ氏が開いた2011年の年越しパーティにて。(Photoo by SplashNews.com)

ロシアのウクライナ侵攻、そしてそれに伴うロシアの大企業に対する世界的バッシングを受け、大勢のアーティストが自問自答している。ベーシストのトミー・スティンソンは、ガンズ・アンド・ローゼズの一員として2010年、ロシアの電力会社のためにモスクワで行われたプライベートコンサートに参加した時のことを振り返る。

【動画】アブラモヴィッチ氏の私的パーティで歌うポール・マッカートニー

2010年にモスクワの映画撮影スタジオMosfilmで行われたガンズ・アンド・ローゼズのコンサートは、ロシア最大の国営電力会社Federal Grid Companyの副理事長だったアレクサンドル・チスチャコフ氏の主宰だった。「あれほど居心地が悪かったことはない」とスティンソンも言う。「酔っ払ったパーティ客の連中が、俺たちを呼べたことに喜んでいた。金メッキのトイレなんてのは見かけなかったけど、きっと会場のどこかにはあったと思う」

2014年にロシアが最初にウクライナに侵攻した後も、こうした私的なコンサートは後を絶たなかった。2016年にはサイード・グツェリエフ氏(制裁対象となっているロシアの石油王ミカエル・グツェリエフ氏の息子)の結婚式で、スティングとジェニファー・ロペスがそれぞれ別々に演奏した。結婚式にかかった費用はおよそ数十億ドルと言われ、ウェディングケーキは高さ12フィート。会場の天井は花で埋め尽くされていた。参列客にはお土産として、宝石が埋め込まれた箱が贈られた。ロペスはステージの最中に「今日一番大変なこと」は新郎新婦の名前の発音を覚えることだった、と冗談めかして言った。

その1年後にはエルトン・ジョンとマライア・キャリーが、モスクワのドモジェドヴォ国際空港の共同所有者であるロシア人大富豪ヴァレリー・コーガン氏の孫娘の結婚式で演奏した(同氏は現時点では西側諸国の制裁対象になっていない)。

戦争が勃発して以来、ごく少数のミュージシャンが関与を認めた。「オリガルヒ(新興財閥)はもうイギリス、ロシア、世界中のどこでも、ステージや結婚式やパーティを開く立場にはない」。例の結婚式でのパフォーマンスについて、スティングも最近こう発言した。「ああいう時代は終わりだ」 予定されていたロシア公演をキャンセルしたディープ・パープルのロジャー・グローヴァーも、「多くのアーティストと同じように、俺たちも何度か各国のファンのためにプライベートコンサートでパフォーマンスした」ことを公表した。

その他大勢のロシア人オリガルヒ同様、ロマン・アブラモヴィッチ氏もソ連崩壊後の混乱期に民有化された国有資産を安く購入し、購入価格の数倍の値で売りさばいて富を築いた――彼の場合、「不正操作」が行われたと言われるオークションで石油会社を2億5000万ドルで買い取り、10年後にロシア政府に130億ドルで売却した。

アブラモヴィッチ氏は公にはプーチン大統領やロシア政府と一定の距離を保ちつつ、チェルシーFCをはじめとする資産を手に入れた。西側諸国はこれを策略だと言う。イギリスやEUの当局によれば、アブラモヴィッチ氏はプーチン大統領との緊密な関係のおかげで財を成し、私腹を肥やすことが出来たのだという。EUの制裁書は同氏をプーチン大統領と「長きにわたる親交があり」「優先して面会できたロシア人オリガルヒ」とみなし、「ロシア元首との結びつきによって多大な富を維持した」としている。イギリスの制裁書にも、同氏がロシア政府から「優遇措置」を受けていたと記載されている(ローリングストーン誌のメールに対し、アブラモヴィッチ氏の代理人から返答はなかった)。

Translated by Akiko Kato

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