ジョニー・デップ裁判、ドメスティックバイオレンス(DV)被害者たちのリアルな声 米

被害者支援団体も攻撃の対象に

裁判が佳境を迎える中、被害者を支援する団体は口を閉ざし、評決に達するまではあえてどちらの側にも口出ししなかった(#MeToo運動組織は「被害者」全般を支援するやんわりとした声明を発表したが、名指しでハードやデップに同調することはなかった)。だがそれでもデップのファンは止まらなかった。彼らはこうした団体がハードに肩入れしていると非難して、嫌がらせや虐待的なメッセージを送りつけた。

「この仕事をして30年になります。注目の裁判にも何度か関わりました」と言うのは、全米家庭内暴力防止連合のCEOを務めるルース・グレン氏。彼女本人も家庭内暴力の被害者だ。「ですが、こんなのは初めてです」 彼女はデップに対する世間の熱をこう分析する。「セレブとしての経歴が長く、PR戦略を駆使する資金があったからこそ……世論の流れや裁判の方向をコントロールできたのです」

被害者支援団体Safe Horizonの刑事司法部で副部長を務めるモーリーン・カーティス氏は、今回の評決で「またもや被害者の口が封じられ」、メディアで加害者に意見するという「実質的な選択肢が奪われた」と言う。確かに、こうしたことはすでに起きているようだ。タイラー博士の話では、すでに「数百人」の被害者から、メディアに掲載した発言の撤回や加害者に対する訴訟の取り下げを求める連絡があったそうだ。今回の評決で、将来的に名誉毀損裁判が「堰を切ったように出てくるだろう」と彼女は言う。「被害者は裁判を見て、自分の身に起きたことを声高に叫ぶことを思いとどまるでしょう。訴えられて、裁判で汚名を着せられる可能性もあります。真実を言っているにも関わらず、名誉毀損で有罪になるかもしれません」と彼女は言った。「恐ろしい状況です」

マサチューセッツ州で家庭内暴力と離婚専門の弁護士をしていたシーシー・ヴァン・ティン氏によれば、問題を引き起こす可能性があるのはメディアでの発言だけではないそうだ。「頭に入れておいて、慎重になるべきです。FacebookやInstagramで意見したり、友達に愚痴をいっただけだと思っていても、公共で露出したことになります」

取材で話を聞いた被害者の多くは、今回の評決が無意味だと言う。親しい人たちがデップへの支援を口にしているため、自分の経験を打ち明けるのをためらっているとも言った。「今の段階では、結果がどこまで重要かわかりません」と匿名希望の被害者も言う。「女性はうそつきだ、加害者も同じように被害者だ、と思い込んでる人は意見を曲げません。被害者を黙らせて脅した時点で、すでに被害は起きています。ジョニー・デップのPRチームの勝利ですね」

Translated by Akiko Kato

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