米体操の性的虐待事件、被害者が「お粗末な捜査」と批判するFBIの闇

アメリカ代表女子体操選手:左からアリー・レイズマン、シモーネ・バイルズ、マッケイラ・マロニー、マギー・ニコルズ(Photo by Saul Loeb/Pool/AP)

アメリカの女子体操代表チーム医師だったラリー・ナサール被告が、治療と称して数百人の少女や女性を性的虐待していた事件。同被告は懲役刑を言い渡され、現在服役中だが、現地時間8日、幼いころにナサール被告から虐待されたと言う数十人の元体操選手が、ナサール被告に対するずさんな対応を理由にFBIを提訴した。

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原告団は総額10億ドル強の損害賠償を求めている。原告団にはオリンピックにも出場したアメリカ代表体操選手のシモーネ・バイルズ、アリー・リズマン、マッケイラ・マロニー、マギー・ニコルズも名を連ねている。

自身もナサール被告の被害を受けた原告代理人のサラ・クライン弁護士は、今回提訴したのは金銭的和解のためではなく、司法省に圧力をかけて行動を促すのが目的だとローリングストーン誌に語った。「今日は、悪者が責任を追及されるまで私たちは一歩も退かないことを伝えに来ました」と彼女は言った。「ナサール被告の虐待を連邦捜査局が知った後も、被告を野放しにして90人以上の女性たちの虐待を許した人々も同罪です」

FBIは新たな訴訟申し立てに対してコメントを控え、昨年9月にクリストファー・レイ長官が上院司法委員会で行った発言を繰り返すにとどまった。当時長官は被害者に謝罪し、FBIが行動を起こさなかったことは「受け入れ難い」としたうえで、二度と繰り返されないようにすると誓った。「とりわけ、2015年の段階でこの怪物を止めるチャンスがあったのに、それをしなかった人間がFBI内部にいたことを申し訳なく思います」と、長官は当時こう述べた。「言い逃れのしようがありません」

FBIが捜査を蔑ろにしていたことは周知の事実だ。昨夏、司法省監察総監が公表した報告書には、同局の捜査不備が細かく記載されていた。報告書によると、最初に通報があった2015年7月から、ミシガン州立大学警察がナサール被告を引き渡す2016年8月までの間、さらに70人の少女が虐待を受けていたと見られる。今回FBIを提訴した90人の原告も同時期に虐待を受けたと主張しており、監察総監の推定を裏付けた。だが児童虐待で有罪判決を受け、残りの人生を刑務所で過ごすナサール被告を除き、これまで刑事責任を問われた者は誰もいない。被告は何十年も著名なスポーツ医師という評判を隠れ蓑に、数百人の若い選手を虐待していた。

ナサール被告を好き放題させたとして非難を受けている組織はFBIだけではない。2016年にはナサール被告の虐待容疑に適切な対処を怠ったとして、全米体操連盟と米国オリンピック・パラリンピック委員会が数百人の被害者から訴えられた。数年にわたる交渉の末、昨年12月に3億2000万ドルの和解金で双方が合意に達した。和解金は500人以上にも及ぶナサール被告の被害者に分配されることになっている。訴訟が行われている間、全米体操連盟および全米オリンピック委員会のトップはいずれも辞任した。

だが被害者にとっては、責任当事者に法的手段を講じるのはいまだ難しい。監察総監の手痛い報告書にもかかわらず、司法省はつい数週間前、ナサール被告の捜査で不正を行ったFBI捜査官2名を起訴しないと発表した。そのうちの1人マイケル・ラングマン捜査官は、ナサール被告に対する容疑に対処せず、その後嘘をついたとして昨年冬に解雇された。もう1人のW・ジェイ・アボット捜査官は、2018年に退職している。

Translated by Akiko Kato

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