moonriders特集、鈴木慶一の自薦22曲と共にデビューから現在まで46年の歴史を語る



田家:本格的テクノニューウェーブ。

鈴木:1976年の『火の玉ボーイ』から3年でこうなってしまった(笑)。

田家:今その話をしようと思ってた(笑)。

鈴木:すごい変わり身だと思います。1個前の『ヌーベル・バーグ』。これってニューウェーブでしょ。その頃からニューウェーブは聴いていた。でも影響受けた曲をあまり出さずにタイトルだけに込めた。『ヌーベル・バーグ』というタイトルは1980年に『カメラ=万年筆』というアルバムが出ます。それに対する予兆も込められていますね。いつか映画音楽のタイトルだけでアルバムを作りたいなと、『ヌーベル・バーグ』の頃から思っていたんですよ。この3年間鈴木博文が「シナ海」以降、『ヌーベル・バーグ』まで曲を書かなくなる。歌詞に専念しますね。武川雅寛も「頬うつ雨」以降、曲を書かない。白井良明の曲がこの『MODERN MUSIC』で登場する。「ディスコ・ボーイ」という曲ですね。だから、私と岡田徹、かしぶち哲郎っていうこのへんが初期の頃は作っていたんだなと思います。

田家:「ヴィデオ・ボーイ」は慶一さんの詞曲ですね。

鈴木:『MODERN MUSIC』というアルバムはかしぶちくんの「バック・シート」という曲が最初にできて、この曲悔しいほどいい曲だなと思った。これを超える曲を作らないといけないなというライバル心が生まれた。リハーサル・スタジオでテープを回しっぱなしにしながら曲を作ったりアレンジしたり。

田家:例えば、博文さんが詞を書くようになって、曲を書かなくなったというのは。

鈴木:詞をメンバーから頼まれるんですね。そうすると、曲までおっつかなくなっちゃうと。まあ、共作ではありますよね。「ジャブ・アップ・ファミリー」って曲は『ヌーベル・バーグ』ですし、『MODERN MUSIC』には「モダーン・ラヴァーズ」っていう曲が入っているけど、単独で曲を書いていないんですね。

田家:バンドの中の役割バランスが変わってきた。

鈴木:そうですね。最初に言いましたけど、『火の玉ボーイ』は岡田くんと私のが多いとか、そういうバランスが時代、時代によってあるんですね。

田家:3年間でこれだけ大きく変わると、メンバーの中には変わり方に対してあまり同調できないとか、俺はそういうのあまり好きじゃないんだよっていうことで意見が分かれたりする場面ってないんですか?

鈴木:なかったです。

田家:なかったんだ!

鈴木:うん。みんな一斉に髪の毛短くして、ヒゲは残ってる人もいたけど剃っちゃったり、ビニールのパンツになったりね。

田家:それはみんなで同じことをおもしろがれた。

鈴木:そうですね。だから長い歴史の中で最後ですよ。みんなで同じ店に行って、同じ音楽を聴くというのは。はちみつぱいの頃は、ロック喫茶に行って、あの曲いいよな、あのアルバムリクエストしようっていうのはありました。この頃はナイロン100%というお店が渋谷にありまして、そこに行ってかかっている曲が最新のニューウェーブだから何だか分からないんですよ。これ誰のだか聞いてきてよ、じゃんけんで負けた人が聞きに行こうと(笑)。

田家:え、みんなで聞きに行くんだ(笑)。

鈴木:全員揃ってお店に行って聴くわけ。だから、最初にして最後に浴びたムーブメントでしょうね。

田家:ロック少年みたいなことでありつつ、やっぱりみんなで新しい波を俺たちのものにしようぜみたいな感じがあった。

鈴木:そうです。それ以前は違う音楽をやっていたわけだから、『火の玉ボーイ』を聴けば分かりますけども、アメリカンなグッド・タイム・ミュージックだったわけですよ。そういう友人が多かったんだけど、「火の玉ボーイ」から「ヴィデオ・ボーイ」になったことによって、そういう友人たちが離れていきました。

田家:離れましたか。あいつらなんだみんなでって。

鈴木:なんだビニールのパンツ履いてって。

田家:みんなで同じように(笑)。

鈴木:髪の毛短くなっちゃってとかね。で、ニューウェーブシーンに入っていくわけですね。ニューウェーブのバンドがたくさん集まったフェスとか、学園祭とか出ます。そうすると、帰れって言われたりする(笑)。

田家:あ、帰れって言われた!

鈴木:お前らオールドウェーブだろみたいな感じで。

田家:すごいなー。YMOに対してはどう思われていたんですか?

鈴木:凄くおもしろいバンドが出てきたなって思いました。ジョークにたけているし、こんなメガヒットになるとは思わなかったけど、良い結果だった。おかげでいろいろいい面がたくさんありましたもん。

田家:いい面もあった?

鈴木:要するにそういうニューウェーブがどこか注目される。歌謡界から注目されるっていうことは、当然誤解もあるわけですよね。YMOのメンバーが言ってましたけど、「君に、胸キュン。」を出したとき、歌謡界から「はあ、やっと歌謡界に戻ってきたな」と言われたようなんですね。意図的にやっているのになーっていうことなんですよ。誤解を利用するしかない。

田家:でもYMOの3人は同じようにみんなで同じロック喫茶に行って、同じ音楽を聴いたりしないでしょうからね。

鈴木:でもありましたよ。深夜の所謂カフェバーの走りとかで3人とばったり会ったりしました。

田家:そうですか。なるほどねー同じ流れの中にいたということで。

鈴木:東京シーンってことですね。

田家:80年代東京シーン。このアルバムもそういう象徴的な1枚ではないでしょうか。6曲目、1980年8月発売『カメラ=万年筆』から「無防備都市」。

Rolling Stone Japan 編集部

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