シドが明かす失恋の乗り越え方、ジ・インターネットの今後、フジロックへの想い

 
ジ・インターネットの今後、フジロックへの想い

―サウンド面ではいかがでしょうか。トラップを軸にしたトレンドのサウンドが詰まった前作『Fin』と比べ、今作はあなた自身のオーガニックな魅力が感じられて、これもまた素敵です。今回何かコンセプトがありましたか?

シド: プロジェクトを始めるときに、自分がどんなものを作りたいかはっきりしていることってなくて。大抵は、トラックを聴いて「これがどこにしっくりはまるかは分からないけど、どうしても曲にしたい」なんて思うところから始まる。インストゥルメンタルを聴いたときに感じる気持ちをベースに広げていく感じ。

―アルバムを作るというのは常にオーガニックなプロセスでありながらも、音的にはたまたま今回オーガニックな面が前面に出てきたような感じでしょうか。

シド:そう、その通り。そういう風に作るようになったのは(ジ・インターネットの)『Ego Death』の前くらいかな。

―前作は、ジ・インターネットとの違いを明確に打ち出したとおっしゃっていました。今作はいかがでしょうか。前作よりも、バンドでのあなたの魅力が反映されているように感じます。

シド:「BMHWDY」(「break my heart why don’t you」と発音)はスティーヴ・レイシーが作った曲だからジ・インターネットみたいなフィーリングがあるけれど、全体としては今作でも無意識のうちに差別化しようと思っていたかもしれない。私のソロ作品というのは、自分が他のプロデューサーと組むチャンスでもある。ジ・インターネットはメンバーがプロデューサーだから、外の人を連れてくる必要がないでしょう。だから、ソロ作品はコラボのチャンス。一緒にやりたい人は本当にたくさんいる。

―例えば「Fast Car」のサウンドメイキングや、終盤に挿入されるギターソロには新鮮さを感じて驚きました。この曲は、トロイ・テイラー、B.A.M.、レイモンド・ショーンデイル・ヒントンがクレジットされていますね。制作にあたり、プロデューサーとはどのようなコミュニケーションをされたのでしょうか。

シド:それがね、一切会話がなかったの! すごくクレイジーな話だけど(笑)。トロイ・テイラーがインストゥルメンタルを送ってくれたんだけど、そこに既にギターソロが入っていて。

―そうだったんですね。あのギターソロは美しいですよね。

シド:そう! 最初の時点で既にあんな感じだったね。特に会話らしい会話をするでもなく、それに合わせて曲を書きはじめて。元々のコーラスは今とは違ったもので、いいなとは思ったけどちょっと押しが足りないような気がして、何人かに手伝ってもらい変えていった。通常私はあまりプロデューサーに物申すタイプじゃなくて、ビートをもらったら「よし、これ以上は何も求めない」って感じなんだけど、今回はもらったものをパーフェクトに仕上げたいという気持ちが強くて。プロデューサーの人たちが、インストゥルメンタルの扱いについて私を信頼して任せてくれた部分があったのもラッキーだった。



―あなたは前作の「Know」でアリーヤを彷彿とさせるタッチの曲を作られています。今作も、「Control」で同様のフィールを感じました。あなたにとってアリーヤはどのような存在でしょうか。今回「Control」の制作過程では、プロデューサーのロドニー・ジャーキンスとどのようなやりとりをされましたか?

シド:アリーヤのことは大ファン! 比較されるなんて嬉しい(照笑)。すごく光栄なこと。ロドニーと組むのは私の「死ぬまでにやりたいことリスト」に入っていた。私にとってオールタイム・フェイバリット・プロデューサーの1人。制作時は彼の自宅のスタジオに行った。「まあ座って」と言われて座ったら、彼はいきなり会話もせずにビートを作り出してね(笑)。しかも作るのがものすごく早くて、私はただ座っていただけなのに1時間で4種類くらいのビートができていた。「Control」のビートを聴いた時は、頭が急に速く回り出したような感じだった。彼もそれに気づいたみたいで、「こういうのが好きなんだね?」と言うから、「そう、まさにこういうのが欲しい」って。

―彼との仕事自体、夢のようだったのではないでしょうか。恐らくあなたが聴いて育ってきたアーティストをみんな手がけてきたような人でしょうし。

シド:ほんと、全員。実は最近彼から連絡があって……もっと一緒に作りたいと言ってもらえた。もしかしたら一大プロジェクトになるかもしれない。本当に楽しみ! ツアーが終わったら彼のところに行って制作に取り掛かろうと思う。



―今作はジ・インターネットに対してどのような影響や効果を与えそうでしょうか?

シド:何か影響や効果を与えるというよりは、次のジ・インターネットのアルバムがなるべくものになるための余地を与えることになるんじゃないかな。そのためにメンバーがそれぞれソロ活動の機会を大切にしているというのもあるし。パーソナルなアイデアは、グループ活動に必ずしも必要って訳じゃない。もちろんそれぞれの個人的な体験から生まれる曲はあるけど、自分のわだかまりは自分で処理する方がいいしね。スティーヴが今度出すアルバムも、彼にとってそういうアルバムになるみたい。言いたいことを他の人に遠慮することなく言えるアルバムということで。そういう場があることってどんなアーティストにとっても大切だと思う。

―ちなみに、制作はもう何か始まっているんですか?

シド:私はツアー中だし、スティーヴも自分のアルバムを出す準備をしているから、今はまだそんなに予定が入ってなくて。マットと私はバケーションを取るつもりだし。私とマットがバケーションを取るということは、少なくとも何かに向けて会話をすることはある、ということ。次のプロジェクトを立ち上げようとワクワクしているのは間違いない。マットは錨(いかり)で、私は船のてっぺんにある安定板みたいなものだから、彼が錨を上げる時は教えてくれるはず。そうするまではじっと停泊しながら機が熟すのを待って、その間自分のことをやっている。

―この夏は、フジロックでの来日が決まっています。2016年にジ・インターネットとして出演されていますが、当時感じたフジロックに対する印象は?

シド:美しいところだった。丘陵がすごくきれいで……私たちが行ったときはちょっと曇っていたけど、暖かかった。久しぶりに行くのが楽しみ。あれから私も歳を重ねて自己認識ができるようになってきて、以前経験したことでもまったく新鮮に感じられるはず。今回のツアー・クルーも素晴らしいし、メンバーの中には海外が初めての人もいるから、彼らの目を通じてものを見ることもできるしね。日本は大好きだし、新しい思い出を作りたい。今回は初めてのソロでの日本ということもあって、歴史的な瞬間になる。

―他のアーティストを観ることができるのも楽しみですね。

シド:そうそう、友だちも何人か行くみたい。(「Missing Out」のMV作りに携わった)Girls Don’t CryのVerdyも来るはずで、久しく会っていないから楽しみ。

―ステージを楽しみにしています。最後に、日本のファンにメッセージを。

シド:とにかく「ありがとう」って言いたい。ついてきてくれてありがとう、長年応援してくれてありがとう!




シド
『Broken Hearts Club』
発売中
視聴・購入:https://Sydsmji.lnk.to/BrokenHeartsClubRS

FUJI ROCK FESTIVAL ’22
2022年7月29日(金)、30日(土)、31日(日) 新潟・苗場スキー場
※シドは29日(金)出演
詳細:https://www.fujirockfestival.com/

Translated by Sachiko Yasue

 
 
 
 

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