ジャック・ジョンソンが語る新境地とブレイク・ミルズの貢献、家族や自然へ対する思い

ジャック・ジョンソン(Photo by Morgan Maassen)

 
自然(海)と寄り添った暮らしのなかから生まれた波動を、シンプルなアコースティックギターの音色と、優しく語りかけるようなボーカルで表現。21世紀における「サーフ・ミュージック」のスタンダードを築き上げた存在である、ジャック・ジョンソン(Jack Johnson)。デビュー盤『Brushfire Fairytales』の発表から20年以上、時代に流されることなく、常に大切な家族や環境と共に過ごすことの大切さを訴えてきた彼が、パンデミックという予想もしなかった大波を乗り越えて、5年ぶりとなるオリジナル・アルバム『Meet the Moonlight』を完成させた。

「思わぬ事態に遭遇してしまったことで、ずっとハワイにこもりっきりの生活が続きました。でも、私にとってはとても良い時間で、大好きな地元で愛する人たちと過ごし、たくさん曲を書く時間が持てたのです。結果、友情、隔離、旅をするということ、他人への思いやり、信念体系など、さまざまなことを考えて、アルバムが出来るくらいのボリュームの楽曲が誕生しました。今のこの異常な状況のなか、人の本質はそう変わってはいないと思いますが、ソーシャルメディア含め、テクノロジーの性質は大きく変化している。本作の歌詞には、そんなことが表れていると思います」


代表曲のひとつ「Better Together」(2005年の2ndアルバム『In Between Dreams』収録)

本作は、フィオナ・アップル、ジョン・レジェンドなどを手がけているブレイク・ミルズと初タッグを組んで完成させたもの。ハワイの自身所有のマンゴー・ツリー・スタジオとLAにてセッションした1枚である。

「ブレイクの音楽は好きで、いつもアルバムを聴いていましたが、彼がプロデュースをする人だとは知りませんでした。教えてくれたのは私のマネージャーで友人のエメット・マロイ。それで興味を持ち、彼が手がけたものを聴いてみた。すると大好きだったアラバマ・シェイクスの数年前のアルバムも彼によるものだったし、他にも知らずに聴いていた作品がたくさんあるとわかった。自然に私が惹かれた音楽の多くが、彼のプロダクション、もしくは彼自身の楽曲だったのです。それで話を始め、流れでスタジオに入り、気づけば一緒に作業をしていた。私たちの関係は例えるなら、ベン図式(venn diagram)です。交差する部分がたくさんある一方で、私にはあまりない実験的で変わったジャズのような音楽性もブレイクにはあり、本当に幅広い引き出しがある。ゆえに、普段の自分の世界を飛び出し、新しい場所へ引っ張ってもらえたというか。それをスタジオに持ち込み、一緒に作業できたのは本当に良かったと思います」


ブレイク・ミルズが演奏/プロデュースした楽曲のプレイリスト

これまでのジャックのサウンドとの共通点がありながらも、全体的に不思議なエコーのかかった世界が広がっている。特にリード・トラックになっている「One Step Ahead」は、デビュー盤にあったような軽快なグルーヴ感に、独特の余韻を加えたような印象。

「この楽曲はユニークで、新しさがあると同時にデビュー盤を制作していた頃のようなスピリットが、呼び戻された印象がしました。また、たくさんの打楽器が入ってる曲でもあります。(ジャックのサポート・メンバーである)アダム・トポールや、ブレイクもドラムを叩き、私もパーカッションを演奏している。大勢の人間があの曲で集まって太鼓を叩いているのは、まるで小さなドラムサークル(円になっての打楽器の即興演奏)のようで、幸せな気分になりました」



幸福なグルーヴを表現していながらも、「一線を越えて」人や自然を敬う気持ちが薄れていってしまいそうな現代の状況を憂う表情がうかがえる楽曲だ。

「私の場合、例えば友人との会話やたまたま誰かと交わした言葉に対して、自問自問し続け、小さな種が植えられ、ずっと忘れられずにいると、その疑問を処理するために楽曲が作られるパターンが多い。曲を完成させたことによって答えが見つかることもあるけど、逆にさらに疑問が深まることもある。この楽曲で歌っているのは、今のこの悪くなる一方の世界の状況の中で、人々はSNSだけでなくメディア全体から発信される、ものすごい量の情報に常に晒されているってこと。あなたが世界が良くなると信じようが信じまいが、情報は押し寄せてくるし、残念なことにその情報の多くがネガティヴ寄りでシニカルなものばかり。でも闇が迫ってくるように感じられたとしても、一線を越えてしまったように思えたとしても、私たち自身がその守るべき一線なのであって、実際に越えてしまったら逆戻りはできない。だから、それを無視したり、そんなことは起きていないと否定するのではなく、世界の美しい部分に目を向ける余裕を頭の中に残しておくべきだという。少なくとも、私はそうありたいということを歌っている楽曲なのです」

 
 
 
 

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