ボブ・ディラン『ブロンド・オン・ブロンド』革命的2枚組とロック名作が競い合う1966年

ボブ・ディラン(Photo by Tony Gale/Alamy)

 
ボブ・ディランのデビュー60周年を記念して、1963年の2ndアルバム『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』、1965年の5th『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』に続き、1966年の7th『ブロンド・オン・ブロンド』が6月22日にアナログ・レコードで発売される。ディランの最高傑作と評する向きもある、革命的なダブルアルバムを振り返る。

『ブロンド・オン・ブロンド』はボブ・ディランのアルバムの中で最もミステリアスかつ荘厳で、誘惑的な作品だ。もちろん、最高傑作であるのは間違いない。カントリーのヒット曲を量産してきたナッシュビルのセッションプロたちをバックに短期間でレコーディングした『ブロンド・オン・ブロンド』は、キラキラ光るピアノのフレーズからソウルフルでどこか泥臭いグルーヴまで、従来のディランの作品とは全く異なる輝きを放つ。それでも艶やかな仕上げのおかげで、各楽曲の印象がさらに深まっている。1966年5月16日にリリースされた本作は、今なおディランの才能が発揮された最高傑作であり続ける。「ジョアンナのヴィジョン」は彼の作品の中で最も孤独を感じるし、「アイ・ウォント・ユー」ほど滑稽な曲もなかった。さらに「メンフィス・ブルース・アゲイン」は、他の作品にはない絶望感を漂わせている。どこかに属することなく絶望の淵にあった一人のアメリカ人による、単なるフォークソングの枠を超えたロックンロール。最も広がりを感じるディランの作品だ。「自分が蚊帳の外に置かれているとは考えない」とディランは、アルバムのリリース当時に語っている。「ただ自分の方から近寄らないだけだ」



『ブロンド・オン・ブロンド』は、正に「近寄り難い」冷たさに満ちている。テキサスのクスリと列車のジンをミックスし、アルバム全体が、深夜の孤独と不安に満ちたブルーズの幻覚と、ディラン特有の鋭いウィットに富む。当時わずか24歳だったディランは、常人であれば数カ月しかもたないであろう狂人的なペースで曲を書き、ツアーをこなした。エレクトリックを導入した『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』(1965年5月)と『追憶のハイウェイ61』(同年8月)に続き、2枚組の最高傑作をリリースしたディランは、歴史的な快進撃を続けた。誰も彼のスピードについて行けず、作品をリリースするより早く数々の傑作が書き上がって行った。中でも『ブロンド・オン・ブロンド』のサウンドは、ディラン自身も再現不可能な奇跡の産物だといえる。オルガン奏者のアル・クーパーは「午前3時に出したサウンドを、これほど見事に捉えた作品はない。シナトラにも勝る」と評した。

『ブロンド・オン・ブロンド』は『追憶のハイウェイ61』や『ブリンギング・イット〜』ほどパーフェクトな作品ではない、とする主張にも一理ある。幅広い要素を取り入れた2枚組のサイド3には軽快な作品も何曲か含まれ、アルバムのオープニングに収録された騒々しい珍曲は、図らずもシングルとしてヒットした。「雨の日の女」をアルバムの冒頭に持ってくるなど、ザ・ビートルズが『リボルバー』のオープニングに「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」や「ハロー・グッドバイ」を据えるようなものだ。それでも、2曲目からラストまでの68分間を一気に聴かせる『ブロンド・オン・ブロンド』は、ロックンロールの歴史の中でも類を見ないディランの最高傑作と言って間違いない。アルバムを聴いていると、負け犬や奇人・変人に懐中電灯を向けて、狂っているのは彼らの方か自分なのかと自問する夜警の気分になる。『ブロンド・オン・ブロンド』の楽曲の場合は、どちらも当てはまるだろう。

Translated by Smokva Tokyo

 
 
 
 

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