「燃え尽き症候群」は個人だけの問題じゃない、周囲の人と考えるメンタルヘルスケア

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音楽学校教師で産業カウンセラーの手島将彦が、世界の音楽業界を中心にメンタルヘルスや世の中への捉え方を一考する連載「世界の方が狂っている 〜アーティストを通して考える社会とメンタルヘルス〜」。第44回は、「燃え尽き症候群」の環境や組織の問題について産業カウンセラーの視点から伝える。

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先日、サカナクションの山口一郎さんが体調不良のため一定期間の休養をとられることが報じられました。公式HPでの発表によれば、5月から極度の倦怠感・疲労状態などの不調が続いていて、医師から休養が必要との診断を受けたとのことです。また、所属事務所契約のカウンセラーとも相談を重ねてきていたことも明かされています。自身のツイッターでは「コロナ禍で頑張りすぎたのか燃え尽き症候群だったみたい」と綴っています。最近では他に、BTSの活動休止に伴ってRMさんが「K-POPアイドルというシステム自体が人を成熟させない」「少し僕らが立ち止まり、休む」と話し、アイドル、アーティストたちが置かれている過剰な労働環境に関する問題も注目されたばかりです。

この「燃え尽き症候群」ですが、世界保健機構(WHO)が、つい最近の2019に策定され、今年2022年に発効されたばかりの国際疾病分類(ICD-11)に新たに項目として追加し、定義が規定されました。燃え尽き症候群は「健康状態に影響を与える要因」に分類される「雇用や失業に関連する問題」の1つとして記載されており、「適切に管理されていない慢性的な職場ストレスから生じるもの」と定義されています。その特徴として「①エネルギーが枯渇するかまたは消耗したという感覚」「②仕事への忌避感の増加、または仕事に関する否定的ないし冷笑的な感情」「③能率の低下」になります。

注目すべきは、ICD-11では燃え尽き症候群は疾病ではなく「職場の問題」とされている点です。つまり、個人の問題というよりも組織や環境の問題と言えるのです。以前この連載でも取り上げたことがある「感情労働」で絶えず自身の感情をすり減らしてしまっているような職業(医療・介護・教育関連や、その他対面のサービス業、そして音楽・エンターテイメント産業など)に従事している人や、「真面目で責任感が強く、頑張り屋」というタイプの人は、本人が無自覚のうちに、環境に過剰に適応しようとして許容量を超えてしまい、この症候群に陥る危険性が高くなりますので注意が必要です。回復するためにはまず取り巻く環境の改善を行い、仕事量を減らす、休職も選択肢に入れて十分な休養をとる、症状によっては必要に応じて精神科医による薬物療法も行います。

Rolling Stone Japan 編集部

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