Diosの根幹を探る たなかが明かす再生までの物語、3人が共有する美学とビジョン

 
2. Dios全員インタビュー
この3人だからこそ生まれた化学反応


Dios、左からIchika Nito、たなか、ササノマリイ(Photo by Masato Moriyama)

―なぜ1stアルバムのテーマを「CASTLE=城」にしたのでしょうか?

たなか:大きなコンセプトがあった方がいいよね、と思いながら、でもこういうときに僕の中で実はわりと何でもよくて。たとえば「水」でも「テーブル」でも、何かがあるとそこから自分で意味を引き出すようになっていくので。近所を歩いているときに「アパートキャッスル」というのがあって、「これでいいや」と思って、『CASTLE』にしたという流れですね(笑)。「キャッスルね〜」と思っているだけで、メンバーの音もなんとなくキャッスルみが増していくっていう。

―キャッスルみが(笑)。

たなか:そこから僕がこじつけたことでいうと、森の奥に城があって、それは音楽を聴いたときにだけ立ち現れる幻の城で。音楽の強いところってそこだなと思っていて。場所を選ばずに、存在しないものを存在させられる。イントロだけで景色をビビッドに蘇らせることができるじゃないですか。一音で、一瞬で、そこに行けるのがすごくいいなと思っていて。そういうお城をみんなで作りました。

―Diosとして曲作りはどういうふうに進めているんですか?

たなか:基本はササノ(マリイ)が始めるか、Ichikaが始めるか、という2パターンで。「断面」「残像」「試作機」「天国」「逃避行」「鬼」はIchikaスタートで、「Virtual Castle」「紙飛行機」「劇場」「ダークルーム」はササノスタート。「Misery」はIchikaが発表していた曲にササノが鍵盤を足して僕が歌を乗っけたという。「Bloom」だけ成り立ちが異質で、みんなでスタジオに入って作りましたね。「断面」「残像」とかは、「森の奥みたいな曲」とか拾ってきた雑な画像を、ざっくり投げた気がします。


Photo by Masato Moriyama

―今言ってくれた楽曲のそれぞれに、Ichikaさんらしさ、ササノさんらしさがはっきりと出ていますよね。

Ichika:バンドって、他の人で代替できる場合があるじゃないですか。ギターも別の人が同じものを使って弾けば同じ音を出せるだろうとか、歌も同じような声の人が歌ってエディットすれば何とかなるだろうとか、そういうのがあると思うんですけど。結構、唯一無二ですよね。シグニチャーサウンドが3人ともしっかりある。歌詞も、声も、ササマリの作る音も。

たなか:ギターは言わずもがなで。3人ともそれがあるのはすごくいいことですよね。

ササノ:たなかの歌も、ダイナミクスとか、本来合わせるであろう縦とか音程をずらしているところも含めて、すべてが表現方法になってしまっている。これはもう、よほどの人じゃないと模倣できないところにきてしまっていると思う。綺麗に歌うだけじゃ完成できないんですよ。僕は言葉を書く側の人間でもあるので尚更思うんですけど、たなかは表現の仕方がものすごくウィットに富んでいるんですよね。よくこう書いて、しかもメロディに乗せて歌えるなあと。

―Ichikaさんが、ギタリストとして十分に活躍している中でこのバンドをやるモチベーションって何ですか?

Ichika:単純に、日本で精力的に活動している仲間たちと一緒にやるのが楽しいですね。一人のギタリストとして自分に向き合うって、ある意味、瞑想とか修行みたいなものなんですよ。それとは切り離された日常パートを楽しんでいる感じです。ただただ楽しいですね。みんなと曲を作ったり、ライブをしたり、色々話したり。あとは、他の人との組み合わせで、自分一人じゃできない音楽の先へリーチできると思っていて。刹那的な集まりのセッションで生まれたものとかではなくて、長い時間をかけて理解し合った相手とできたものはすごく尊いものだと感じていたので、その仲間を作りたいという想いがありました。



―アルバムを作り終えた今、この3人がいるからこそできる表現とはどういうものだという手応えを感じていますか?

ササノ:何でもできるからこそ自信持って出せるものが増えそうだなって。あれやってみよう、これやってみよう、って前向きな方向に進めていると思う。

たなか:まさにそう。

Ichika:これは他とは違うなと思っているところがあるんですけど。他の多くのバンドは、スタジオに集まってみんなでアレンジを進めたり、スタジオで作曲が始まって骨組みを作ってアレンジをして、その後レコーディング、という感じでやっていくと思うんです。そういうやり方って、もちろんその瞬間瞬間のアイデアが出ていいところもあるんですけど、それではできないことがあるんですよね。メンバー一人ひとりが持っているこだわりとか、時間をかけて取り組みたいことがないがしろにされたり、その場その場で凌いでる感じもあったりする。そのときに出たアイデアが「いいね」と言われても、それは偶然のものであって自分の力じゃないし。自分もそういった現場にいて悔しさとかがあって。「もっとこうできたのにな」みたいな。Diosの曲は、みんな各々持ち帰って練ることができたし、僕自身ギターとベースを録るのにしても、フレーズやアレンジを考えて、それを時間をかけて練習して、その後に録って、というやり方をしたので納得いくものができました。


Photo by Masato Moriyama

―なるほど、それがDiosの緻密なサウンドが生まれる所以なんですね。

Ichika:曲ができる工程として、今回のほとんどの曲は歌をレコーディングした後にギターとベースを録っているんですね。大抵ボーカルを最後に乗せるから、エンジニアさんがボーカルエディットでリズムとかを調整して曲のグルーヴが整えられるんですけど、そうなると、エンジニアさんのグルーヴになっちゃうんです。メンバーの一人が最後にギターもベースも録ると、より独特なグルーヴができる。しかもそれを家で細かいところまで詰められるから、納得できる理想の音像が組み込める。それが他のバンドとは違うところかなと思います。

ササノ:俺が感性で作り続ける人間で、Ichikaがそれを精査してくれる、みたいな感じですね。

Ichika:ササマリの作ったパラデータをもらって聴いていると、かなり変で。音源に聴こえないような、いろんな音が無数に重ねられているんですよ。謎のサンプルが薄っすら流れていたり。全員のデータを見直して、こういうことをやってたんだ、こういう意図があったんだとかを確認できるようになって、より曲に神経が通っていくことを実感しました。

たなか:それをやりだしてから、音がすごくよくなったし面白くなったなって思う。

ササノ:うん、思う。ありがたかったなあ、まじで。

Ichika:初めの頃は、お互いが尊敬し合っているアーティストなので、各々が作ったものに対して「これにはきっとこういう意図があるのだろう、だから残しておこう」みたい気持ちがあったんですけど、メンバー間の遠慮もだんだんなくなってきましたね。

たなか:3人でのやり方もかなりブラッシュアップされて、今すごくいいよね。

ササノ:理想的な作り方ができていると思う。

たなか:そういえば、Ichikaがすげえ怖いことを言い出して。最後の曲のレコーディングが終わった後に、「アルバムもう1回全部作り直したいね!」ってすっごいピュアな目で言ってきたんですよ。普通にちょっと震えた(笑)。

Tag:
 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE