小田和正が追求する音楽の普遍性、オフコース時代から現在までを辿る



田家:今日の5曲目ですね。2007年に発売されたシングル「こころ」。「ラブ・ストーリーは突然に」以来の1位ですね。アルバムは2007年の『自己ベスト -2』に入っておりました。小田さんの音楽を一言で言うと、“普遍性”だと思うんです。いつどんなときにどんな人が聴いても理解できる。どこまで分かりやすくできるか、それをずっと突き詰めてきている。特にこの20年、2000年代以降はそういう時間だったんじゃないかと思います。

アルバムで言うと、2000年に『個人主義』が出て、その後のアルバムが2005年の『そうかな』なんです。『個人主義』はさっきの「the flag」が入っていたように、1人1人個人の生き方を歌ったアルバムでもあったんですけども、『そうかな』はそこから次に行く過程そのもののようなアルバムに思えたんですね。象徴的なのはタイトルがなぜ『そうかな』になったのか。「相対性の彼方に」というのが小田さんが考えているタイトルだった。それはあまりにも難しすぎるんじゃないですかとスタッフとか、メーカーの人から言われて、『そうかな』になったという。ですから「相対性の彼方に」という言葉はアルバムに入っていました。

相対性というものはいろいろなものがあって、これも価値があります、これにも意味がありますということなのですが、その向こうに絶対的なものがある。音楽に永遠の答えなんてあるのだろうかというのも『そうかな』になった経緯でもあったのだと思うのですが。「相対性の彼方に」を『そうかな』にしたことで、分かりやすさの角を曲がったと思った、分かりやすさの扉を開けた。で、『そうかな』に入っていたシングルが「たしかなこと」なんです。『個人主義』で歌っていたことと、この『そうかな』で歌っていたことにはやはり変化があるんだろうと思いますね。

で、「たしかなこと」のカップリングが「生まれ来る子供たちのために」だった。「たしかなこと」の次が「大丈夫」ですね。この「たしかなこと」、「ダイジョウブ」、「こころ」というのは、分かりやすさ三部作の1つの象徴ではないかなと思ったりして、今日はこの曲を選んでみました。2007年というのは小田さんが還暦になった年ですからね。そういう意味では30代、50歳、還暦という3曲が続くことになります。

小田さんのインタビューで「夏目漱石みたいに聴かれたい」という話を聞いたことがあるんですね。つまり100年経っても夏目漱石が読まれているように、自分の音楽もずっと聴かれることが理想だと。ミュージシャンが好きな作家を挙げる、いろいろな例がありますけども、例えば村上春樹とかサリンジャーと言う人が多い印象の中で、夏目漱石ですか、と思ったことがありました。夏目漱石には『こころ』という小説もありますし、小田さんの「こころ」はまさにそういう曲なんだと思います。1番メジャーなところで発表された夏目漱石のようなポップミュージックがこれではないでしょうか。

Rolling Stone Japan 編集部

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