THE NOVEMBERSが魅せた、覚醒したバンドの生々しさと美しさ

THE NOVEMBERS

THE NOVEMBERSが、2022年7月11日に全国ツアー「Tour2022 - 歓喜天 –」のツアーファイナルを東京・Zepp Hanedaにて開催した。

ここではオフィシャルのレポートを掲載する。

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手元に一枚の紙がある。このツアー全公演でライブ終演後に配られていた、かなり立派な質感の印刷物だ。そこにはセットリストに沿った順番で、一曲ごと、印象的な歌詞の一節が綴られている。たとえばこんなふうに。

“きみはいつも いまがはじまり、そうさ きみはいつもここが はじまりさ”
“過去はくれてやる ありったけを全部”

それぞれ「Rainbow」、「New York」(ともに最新作『At The Beginning』収録)からの抜粋。これだけを切り取れば、今がすべて、過去など無意味と言い切るリアリストの姿が見えてくるようだ。では、このライブが最新曲オンリー、昔の回想などなかったと言えないのはなぜだろう。久々すぎて溜息の出る、メランコリックな名曲がいくつも聴けた理由とは。

【写真ギャラリー】THE NOVEMBERS ライブ写真(photo by 鳥居洋介、西村理佐)

THE NOVEMBERS、3年ぶりの全国ツアー「歓喜天」ファイナル。会場Zepp Hanedaの椅子席はほぼ満員で、集まる男女の多くが楠本まきの漫画から飛び出してきたような装いだったのは印象深い。つい耽美系ゴシックの末裔と呼びたくなるが、それはこの時代に正しい捉え方だろうか。一曲目「ANGELS」から響き渡る力強いメロディ、後半はオーケストラのように膨らんでいく幸福なサウンドスケープに飲み込まれながら、否、と強く感じる。


小林祐介(Vo,Gt)

4曲目、小林がアコギを持つ「最近あなたの暮らしはどう」も印象的な一曲だ。タイトルも含めて飾りのないフォーク系の歌もので、どこか線の細いインディ系ギターロックだったデビュー当時の残像が伝わってくる。もっとも、演奏も歌唱も当時の百倍くらい丁寧なので、L’Arc〜en〜Cielの影響もちゃんとあったのだと今さら気づいたりする。

わかりにくい話をしている。ゴシックなのに力強く、線の細いインディ系でもロックスターが好き。だがこれらは実際にTHE NOVEMBERSを構築してきた要素である。さらにはインダストリアルやダークサイケの轟音も取り込み、近年はダンスビートに乗ってエレクトロニカに急接近。これだけをかいつまめば、どんな音楽性か理解しろと言うほうが難しい。

だから、まずは落ち着いて確かめ合おう。前半を歌でじっくり聴かせ、中盤からどんどんダンサブル&ハードになっていったこのツアーの構成は、バンドがどんな道を辿って今の姿になったかを伝えるひとつの集大成だったのだと思う。ただ過去曲を並べるのではなく、「Close To Me」(2019年『Angels』収録)の歌詞になった気持ちを込めて。その抜粋は一一“昨日までの全部を 両手に抱えて 花に変えられたら 羽に変えられたら”


吉木諒祐(Dr)

Rolling Stone Japan 編集部

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