映画『エルヴィス』オースティン・バトラーとバズ・ラーマン監督が語る制作秘話

プレスリー役を射止めるというバトラーの長い旅のはじまりは、ラーマン監督に送ったオーディション用の1本のテープだった。そのテープには、バトラーによる「アンチェインド・メロディ」のカバーが収められていた。

「バズ(・ラーマン)にテープを送ったんだ。このテープは、僕が追求したいと思ったエルヴィスという役へのアプローチの礎になったね。パロディめいたことやハロウィンの仮装のようなモノマネはしたくなかったし、エルヴィスという人間の本当の姿を見つけたかったんだ」とバトラーは話す。

その後、バトラーは5カ月間にわたってラーマン監督と二人三脚で創作プロセスに取りかかった。最終的なキャスティングが決まるずっと前から、ふたりはバトラーがプレスリーを演じるにあたっての大きな可能性を探求していたのだ。

「オースティン(・バトラー)は、エルヴィスとの間にスピリチュアルな絆を感じていたんだ」とラーマン監督は解説する。「2年間、オースティンはエルヴィスとして生活していて、新型コロナのせいで撮影が中断しても、エルヴィスであり続けた。オースティンは、エルヴィスのような脆さも持っていると思う。若い頃に母親を失った人は、いつもその穴を埋めようとしていて、私がこんなことを言うのは、オースティンのことが大好きだからだよ。彼は、誰よりも繊細なんだ」



バトラーは、プレスリー役を射止めると同時に、有力な主演候補とされていたハリー・スタイルズとの競争にも勝利した。ラーマン監督は、スタイルズ自身の知名度が邪魔になってしまうことを危惧して、スタイルズの起用には踏み切らなかった。

「ハリー(・スタイルズ)と一緒に仕事ができるのであれば、私は何だってするよ。いろんな意味で、ハリーは現代のエルヴィスだからね。でも今回は、ミルクに入れる砂糖のように自然で、1秒たりとも観客の意識を邪魔しない役者が必要だった。エルヴィスという人間の魂や彼との親和性を感じさせてくれる役者でなければいけなかったんだ」とラーマン監督は話す。

バトラーが作品の魂を表現しているのであれば、トム・ハンクスは道徳の欠如を表現していると言えるかもしれない。物語の語り手である、ハンクス扮するマネージャーのトム・パーカー大佐は、悪名高いプレスリーの豪腕マネージャーとして、目的のためには手段を選ばないマキアヴェリズムを体現している。

「パーカー大佐に関するリサーチを行なっているうちに、世間が知らないいくつかのことを知ったよ」とラーマン監督は、特殊メイク満載のハンクスの役どころについて語った。「『グレースランド』(訳注:米テネシー州メンフィスにあるプレスリーの邸宅)の記録保管人が、パーカー大佐が変な声を出したりジョークを飛ばしたりしているテープを見せてくれた。それを見ているうちに、この人にはどこかお祭りめいた奇妙さがあると思ったんだ」

バトラー本人もグレースランドを訪れている。目的は、プレスリーの元妻プリシラに会うためだ。「あの場に立って、プリシラさんの目を見つめるのは、とても非現実的な気分だったね」とバトラーは解説する。「エルヴィスとプリシラは、深く愛し合っていました。それにプリシラは、エルヴィスとの間に生まれた唯一の子どもの母親でもある。本当に、信じられない体験だった。プリシラは僕をぎゅっと抱きしめて、『応援してる』と言ってくれたんだ。その言葉は、心に染みわたって、本当に深い体験だった」

バトラーとは対照的に、ラーマン監督とプリシラ・プレスリーとの関係性は単純明快なものではなかったようだ。ラーマン監督は、「とても不安」とプリシラが公の場で映画について発言した際、一抹の恐怖を感じたことを忘れていない。その時、プリシラはバトラーがプレスリー役にふさわしいか疑問があるとも語っていた。

Translated by Shoko Natori

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