60
「Dionysus」(2019年)


過剰主義のマニフェストであると同時にダンサブルなラップ/ロックトラック「Dionysus」は、貪欲なファンのために音楽をつくり続けるという行為の陶酔的でありながらも刹那的なカタルシスを歌っている。BTSにとってアーティストは神聖な存在であり、その役割は人々を恍惚とさせることにある。その一方、芸術はポップス界のエリートである彼らの肉という捧げ物を求める。ギリシャ神話の豊穣と酒の神ディオニソスさながらの過剰主義者の誓いを立てた彼らは、永久に音楽をつくり、パフォーマンスを続けなければならない。「Dionysus」では、こうした対立はアリーナ級のチャントやフック、ギタープレイ、EDMサウンド、巧みな知的ワードプレイによってドラマチックに演出されている。“飲み干せ、創造の痛み”とJ-HOPEが盃を上げるように。—C.A.

59
「Boy With Luv (Feat. Halsey)」(2019年)

エネルギッシュで多幸感にあふれ、どこまでもロマンチックな「Boy With Luv」は、『MAP OF THE SOUL』シリーズの幕開けを告げる爽快なプロローグとしての役割を果たした。アメリカの人気ポップシンガー・ホールジーをゲストに迎えたこのシングルは、世界的なスーパースターたちが屈託のない色恋について歌うかたわら、雰囲気のあるファンキーでポップなムードを届けてくれる。その一方、心の痛みを歌った2014年の「Boy In Luv」からの成長を裏打ちしている。—D.D.

58
「134340」(2018年)


BTSきっての異色作であると同時に、もっとも創意工夫に富んだ「134340」。80年代後半にタイムスリップしたかのようなヒップホップビートとともに幕を開けると、ジャズギターとフルートの優美な調べがJUNG KOOKのヴァースを取り囲む。JUNG KOOKは、情緒あふれる歌声で太陽系の惑星から脱落した冥王星(現在、冥王星には134340という小惑星番号が振られている)の悲しみを歌う。そこに“堕ちた惑星の命にいったい何の意味が残っているんだろう?”や“僕の冷たい心は248度”など、冥王星に扮したRMの誠実なラップが差し込まれる。冥王星の自負心は、まったく揺るがない。荘厳なプレコーラスも秀逸だ。—C.A.

57
「BTS Cypher 4」(2016年)


BTSのラップラインの歴代パフォーマンスのなかでも傑出している「BTS Cypher 4」は、3人のラッパーが繰り出すヒリヒリするようなCypherシリーズのエピローグだ。RM、SUGA、J-HOPEが各自のヴァースをこなす一方、フロウやボーカルを駆使しながら個人としてのスキルを披露している。これらはすべて、目眩くトラップというシンプルな基礎によって結びついている。ラッパーたちがしかるべき成功を享受し、自己愛の旅を称え、注目してくれたことに対してアンチに感謝を述べる「BTS Cypher 4」からは、Cypherシリーズ屈指の落ち着きが感じられる。結局のところ、彼らは“ノーコメントよりもアンチのコメントを歓迎”するのだ。—R.C.

56
「Love Maze」(2018年)


どんな困難にも屈しない相思相愛に捧げられた、グループボーカルの珠玉のパフォーマンスが光る「Love Maze」。この曲でJIMINは、ファルセットや”My ay ay”の調べとともにリスナーの心を自由自在に操りながら、見事なまでに無防備なトーンを表現している。そこにJUNG KOOKの洗練された大人な歌声が重なり、その静かなフロウに私たちは思わず息を呑む。RMは、恋愛の初期段階の焦りを再現するようにダブルタイムラップを放つ。ほかの4人の声も忘れてはいけない。「Love Maze」に世界中がひれふしたのも無理はない。—C.A.

Translated by Shoko Natori

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