映画『エルヴィス』から考察するプレスリー流ファンク、鳥居真道が徹底解剖

エルヴィスがアメリカにもたらしたショックはどのようなものだったか。後追い世代としてはなかなか理解できるものではありません。ロックンロール以降の価値観を所与のものとして受容しているからです。バズ・ラーマンはこの度、エルヴィスがアメリカ文化にもたらしたインパクトをある種の神話としてとても鮮やかに描いてみせました。まるでエルヴィスがアメリカ文化に与えたインパクトを追体験しているかのようでした。

もちろん脚色が入っていないはずがありません。そもそもこの映画は、19世紀のパリを舞台にした『ムーラン・ルージュ』で20世紀のポップスを使用するバズ・ラーマンの作品です。50年代中盤のライブ・パフォーマンスであっても、時代考証的にはありえないエレキギターの咆哮の一つも響くことでしょう。ラーマンのケレン味がよく効いた迫力に満ちた場面でした。

私はこの一連のシーンに、『カラー・オブ・ハート』という映画を連想しました。『カラー・オブ・ハート』は、トビー・マグワイアとリース・ウィザースプーンが主演を務めた1998年の映画です。マグワイアとウィザースプーンは双子の兄妹。内気で真面目な兄と積極的で奔放な妹という正反対の兄妹が、1950年代のホームドラマ『プレザントヴィル』の世界に入り込んでしまうというお話です。プレザントヴィルはかなりコンサバティブな価値観で秩序が保たれている町で文字通り色がありません。世界そのものがモノクロとして描かれています。

当初は戸惑う二人でしたが、マグワイアはそこで安寧を得ます。他方、積極的な性格の妹のウィザースプーンはおもしろくありません。いたずら心で現地の若者と関係を持ちます。すると白黒の世界に色がもたらされます。二人が持ち込んだ現代の価値観がプレザントヴィルに変化を生み、世界は徐々に色づいていきます。新たな価値観に感化された人には色が付き、それについていけないと思う人は白黒のままです。秩序が保たれていたプレザントヴィルは今やカラーの人々と白黒の人々に二分され軋轢が生じます。ここで留意しておくべきは、『カラー・オブ・ハート』は新しい価値観を称揚するものではなく両義的に描いているということです。

『エルヴィス』で描かれたルイジアナ・ヘイライドでのパフォーマンスはまさに白黒の世界に色がついたようでした。映画のなかでも、エルヴィスは「カラー」と「白黒」の分断を生んだ人間としてシンボリックに描かれています。エルヴィスの登場はアメリカ文化の分水嶺だったのだと認識しました。

Rolling Stone Japan 編集部

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