映画『エルヴィス』から考察するプレスリー流ファンク、鳥居真道が徹底解剖

1987年生まれの私がエルヴィスを最初に意識したのは2002年のことです。きっかけはナイキのCMでした。ロナウド、ロナウジーニョ、ロベルト・カルロス、フィーゴ、クレスポ、サビオラ、ベッカム、ヴィエラ、ルイ・コスタ、ダーヴィッツ、トッティ、中田英寿、アンリ、ファン・ニステローイ、スコールズといったスター選手が貨物船のなかでスリーオンスリーに興じる内容という内容を覚えている方がいると思います。2002年といえば、日韓ワールドカップが開催された年です。当時の私はご多分に漏れずにわかサッカーファンだったので、スター選手たちが共演するCMに血湧き肉躍りました。そして、このCMで使用されていたのがエルヴィスの楽曲だったというわけです。厳密にはエルヴィスの「Little Less Conversation」をジャンキーXLがリミックスした音源です。



ジャンキーXLはオランダ生まれのミュージシャンで、ファットボーイ・スリムやケミカル・ブラザーズらとともにビッグ・ビートの草分けとして知られる存在です。ここ十年ほど映画音楽の分野でも活躍しており、『マッドマックス怒りのデス・ロード』や『デッドプール』の音楽は彼によるものです。

2002年はちょうどエルヴィスの没後25周年で、『ELVIS 30 NO 1 HITS』というベスト盤がリリースされました。やはりボーナストラックとして「Little Less Conversation」のリミックス版もボーナストラックとして収録されていました。「Little Less Conversation」のオリジナル音源を初めて聴いたのは大学生の頃です。『Memories: The ’68 Comeback Special』というアルバムを手に取ったのがきっかけでした。「Little Less Conversation」はテイク違いが複数音源化されており、なかなか大変な曲です。オリジナルは『バギー万才!!』というエルヴィス主演の映画の挿入歌としてシングルカットされたバージョンです。歌の冒頭に「ヘイ!」という掛け声が入っているのが特徴です。個人的にこの「ヘイ!」がとても好きです。ファレル・ウィリアムズの合いの手を連想します。これとは別のテイクが『Almost In Love』という編集盤に収められています。

そして、ジャンキーXLのリミックスで使用されているのは『Memories』に収録されているテイクです。オリジナルのキーはAですが、こちらはEに変更されています。間違いなくこのバージョンが出色の出来映えです。ちなみに2001年の映画『オーシャンズ11』ではこのテイクが使用されています。

いずれのテイクもかなりファンク色が強いのが特徴です。冒頭のドラムブレイクからしてファンキーとしか言いようがない。このドラムを演奏しているのは、ご存知ハル・ブレイン。エルヴィスの早口でパーカッシブな歌いっぷりもあって、エアロ・スミスの「Walk This Way」の先駆け的な曲のようにも思えます。



60年代後半のエルヴィスはこうしたファンキーな音源を多数残しています。エルヴィスのファンキー・サイドを語るうえでは、やはり『From Elvis in Memphis』は外せません。アメリカ南部を代表するスタジオ「アメリカン・サウンド」でレコーディングされたアルバムで、メンフィス・ボーイズと呼ばれた腕利きミュージシャンたちがエルヴィスをサポートしています。レジー・ヤング(Gt.)、トミー・コグビル(Ba.)、ジーン・クリスマン(Dr.)、ボビー・エモンズ(Org.)といった面々です。カントリー、ゴスペル、ブルースがないまぜとなったファンキーな演奏が持ち味で、アレサ・フランクリンやウィルソン・ピケット、ダスティ・スプリングフィールドも彼らとアルバムを制作しています。アルバムの冒頭の「Wearin’ That Loved On Look」は、ゴスペルを連想させる力強いアレンジで、スピーカーから汗が飛んできそうな熱っぽい歌唱を披露しています。トミー・コグビルの極太なベースはこのうえなくファンキーだし、ジーン・クリスマンの歯ごたえの感じる乾いたサウンドもたまらないし、レジー・ヤングの埃っぽいオブリガートも素晴らしい。同じくアメリカン・サウンド・スタジオでレコーディングされたウィルソン・ピケットの「Funky Broadway」と並べて聴きたい一曲です。



「Rubberneckin’」もまたエルヴィスのファンキーサイドを代表する曲です。こちらもアメリカン・サウンド・スタジオ産の音源。映画『チェンジ・オブ・ハビット』の挿入歌でシングルカットもされました。レコード会社が「Little Less Conversation」のリミックスの成功に気を良くしたのか、ポール・オーケンフィールドがリミックスした音源もリリースされています。「Rubberneckin’」は、アレサの「See Saw」や「Change」と並べて聴きたい曲です。



Rolling Stone Japan 編集部

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