ハードコアを皆の手に YouTubeチャンネル「hate5six」の仕掛け人

高校生の頃にパンクやスカのバンドのライブを撮影し始めたサニー・シンが立ち上げたhate5six。ヘヴィミュージック愛好家たちの間で、今やその存在を知らない者はいない。(Photo by Kurt Fowles)

暴力や人種差別を経験しつつ、圧倒的な規模を誇るライブ映像のアーカイブを独力で作り上げたサニー・シンとは何者なのか。

【動画】YouTubeチャンネル「hate5six」

サニー・シンがビデオグラファーという肩書きを最も誇りに思った瞬間、それは自身のカメラで顔面を殴られた時のことだ。無数のライブ映像をアップロードし、熱狂的なファンベースを持つYouTubeチャンネル「hate5six」を独力で作り上げたシンは、ボルチモアでDIYのハードコアのイベントを撮影していた時、客席にダイブする寸前だったパフォーマーが振り回した腕がシンのカメラに当たり、その衝撃を顔面で受け止めた彼は歯を2本失った。「映像を見ればわかるけど、俺が殴られてステージ脇に転がった瞬間、カメラもあさっての方向に投げ出される。観てる側は自分が殴られたような気分になるだろうね」とシンは話す。「痛かったけど、あのショーがいかにクレイジーだったかが伝わるはずだよ」

まるでビタミンの如く、シンの動画は世界中のヘヴィミュージック愛好家にライブの興奮を日常的に届けている。2018年に開設された同チャンネル(hate5sixという名前は、現在36歳のシンが育ったニュージャージー南部のエリアコードである856にちなんでいる)には、これまでに5000本近い動画が(最近では日に数本のペースで)アップロードされており、そのほぼ全てをシン自身が撮影している。彼は無名のバンドを積極的に追いかける一方で、ターンスタイルやコード・オレンジといったブレイクを果たしたバンドが、ヘッドラインツアーに出たり大規模なフェスに出演する前から撮影し続けている。hate5sixで公開されている動画の平均再生回数は数百〜数千回だが、2021年にターンスタイルが地元ボルチモアで行ったアルバムのリリースパーティの映像は100万回以上再生されており、全動画の総再生回数は4000万回に達しようとしている。シンの広範なカバレッジと尋常でない熱意(今年の春、彼は1週間のうちに4つの州で行われた計38本のライブを撮影している)を原動力とするhate5sixは非オフィシャルのハードコアのホームページのようなものであり、同ジャンルのファン層の拡大に大きく貢献している。

シーンのキーパーソンたちも同じように感じているという。「2010年代初頭、hate5sixにアップされるライブのフル映像を観てたのは筋金入りのハードコアやパンクのファンで、再生回数は数百回、多くて数千回だった」。そう話すターンスタイルのドラマーであるダニエル・ファンは、2009年に当時所属していたバンドMindsetで初めて同チャンネルに登場している。「今じゃサニーにライブを撮ってもらえば、ハードコアのコミュニティに止まらない世界中のオーディエンスにアピールできる。hate5sixでターンスタイルのことを知っただけじゃなく、このジャンルそのものに初めて触れたっていう人がすごく多いんだ」

「hate5sixのことを知ったのは、ハードコアに興味を持った直後だったと思う」。カリフォルニアのサンタクルーズを拠点とし、急速に人気を集めているScowlのヴォーカリスト、Kat Mossはそう話す。今年1月に同チャンネルにアップされたバンドのライブ映像は、これまでに14万回以上再生されている。「hate5sixは、ハードコアっていうサブカルチャーにのめり込むきっかけの1つだった」



先日アップされた、フィラデルフィアにおけるパンクの聖地First Unitarian Churchで行われたサンタクルーズのバンドDrainのライブ映像を含め、hate5sixで公開される動画に見られる、モッシュピットとステージダイブが絶え間なく起き、マイクを通して叫ぼうと試みるファンにヴォーカリストが囲まれる光景は、アンダーグラウンドの現場の熱狂と興奮をリアルに描き出している。そのコンセプトに基づいて、全てのショーはシンが自ら構える手持ちカメラと簡易な三脚に固定したデジカメのみで撮影される。音楽だけでなく、シーンを育てるコミュニティにフォーカスする彼のアプローチは、シネマ・ヴェリテのそれと通じるところがある。

Translated by Masaaki Yoshida

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