八神純子、“私とアメリカ”をテーマに名曲の軌跡を辿る



田家:先週この曲を流したときに今回の受賞のきっかけになったと申し上げてしまったのですが、それはちょっと早とちりだったみたいですね。

八神:新聞でもそう報じられたものもありました。新聞記者の方はそういうふうに思いたかったんだろうなって。ちゃんと取材も受けたんですけどね。これは直接のきっかけにはなっていない曲なんです。ただ、アメリカで私の歌で1番聴かれているのはこの曲だろうなとは思うんですけどね。八神純子って検索したらこの曲を聴いている人がいっぱいいることが分かって。例えば、私と同じ条件でこの賞をもらう人が最後に何人か残っていて、この中から誰にしようかなといったときに「あーそう言えば「黄昏のBAY CITY」みんな聴いてるよ」というところでもしかしたらプラスに働いている可能性はあると思います。

田家:この曲を書いたときをどんなふうに思い出しますか?

八神:シティポップで今話題に上っているアーティストの方たち、みんな同じように「え? 今頃?」みたいなのがあったと思いますけども。みなさんがどう考えているか分からないんですけど、その頃はアメリカを追いかけていたんです。アメリカのポップスを聴き、そしてあんなふうに曲を書きたいなとか、あんな音楽を作りたいなと、アメリカへの憧れがこの曲になっているわけなんですよね。ですから、もしかしたら40年経って逆輸入しているようなところもあるのかなと思うんですけれども、ただ日本人って素晴らしい部分があって……。

田家:今日はそんな話を伺っていこうと思っております。今週はテーマに沿って選曲をしていただけませんか?ということで、6つの課題を出させていただきました。次にお聴きいただくのは「洋楽を意識して書いた曲」。さっきの「黄昏のBAY CITY」もそんな1曲だったんでしょうが、そういうテーマで選んでいただくとしたらなんですか? とお訊きしたら、1983年のシングル「ラブ・シュプリーム~至上の愛~」を選んでいただきました。

八神:「宇宙戦艦ヤマト」の映画で初ラブシーンがあるということで、書いてほしいとお願いをされて。私はバーブラ・ストライサンドのバラードが大好きだったんですね。ずっと追いかけて、ああいうバラードを書きたいなと思っていて、私が彼女になりきって書いた曲だったんです。

田家:なりきる?

八神:なりきって書いて、なりきって歌いました。

田家:なりきりというのはどういうふうになっていくんですか?

八神:「スター誕生」という映画があったじゃないですか。デビュー直前にプロデューサーの奥島さんという方がいて、中島みゆきさんのプロデューサーでもあった方なのですが、その方に「純子ちゃん、1つの映画絶対観ておいた方がいいから」って連れていっていただいて。「スター誕生」のバーブラ・ストライサンドが歌っている姿を観て、たぶん最初で最後、立てなくなったんです。

田家:感動で。

八神:その感動がずっとサステイン状態で私はデビューして、バラードを歌うときはバーブラ・ストライサンドのイメージで歌っていたんですね。

田家:デビュー以来ずっとという感じだった?

八神:そうです。かなりのところ。あるところでパタッと止まるんですけどね。ドナ・サマーとバーブラ・ストライサンドが「No More Tears(Enough Is Enough)」を一緒にデュエットしたときに、バーブラ・ストライサンドに対して自分が苦手なことやっちゃダメだよと思ったんです(笑)。これドナ・サマーに負けてるじゃんと思って、そのときに私が思ったのは、私は苦手なことを絶対やらないようにしようってそれは覚えていますけどね。

田家:1983年ってアルバムが3枚出ているでしょ。『LONELY GIRL』、『恋のスマッシュヒット』、『FULL MOON』。で、シングルも4枚出ているんですよね。

八神:すごい数ですね。

田家:デビュー5年でアルバムが7枚でシングルは16枚出てたっていうのをあらためて思ったりもしたのですが。

八神:あの頃は普通だったんですけどね。1年に1~2枚のアルバムを出し、シングルは最初の年なんて3枚も出ていますから。

田家:そういうことに対して疑問を思ったり、どうしてなんだろうと思ったりしないで活動していた時期がずっとあったという。

八神:そういうものだと。素直な私というね(笑)。

田家:そういう時期を経て、洋楽のような曲を書こうと思って書いたのがこの曲となるんですね。

八神:そうですねー。ただ、洋楽に憧れている私はずっとあって、デビュー曲の「雨の日のひとりごと」。実はこの曲をあげようかなと一瞬思ったんですけども、B面に入っている「何故だかつらいの」、萩田光雄さんがアレンジをしてくださったんですけども、私が洋楽を目指したというのをすごくよく分かってくださったかのような洋楽アレンジをしてくださったし、私の中ではずっとあったんです。邦楽を聴かない自分でしたし。

田家:今日のテーマの2つ目、洋楽を意識して書いた曲。1983年「ラブ・シュープリーム~至上の愛~」お聴きいただきます。

Rolling Stone Japan 編集部

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