フジロック総括 「洋楽フェス」復活の熱狂、浮き彫りになった新たな課題

ジャック・ホワイト(Photo by David James Swanson)

7月29~31日にかけて開催されたフジロックは、海外アーティストを迎えて3年ぶりの通常開催。前夜祭を含めて7万人近い来場者を記録し、大いに盛り上がった。音楽ライター・小池宏和が3日間の模様を振り返る。

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「特別なフジロックから、いつものフジロックへ」。今年3月、「早割」こと早期割引チケットの受付スケジュールとともにフジロック・フェスティバル事務局から発せられたのが、前述の表題を掲げた「FUJI ROCK FESTIVAL ‘22開催にあたって」のステートメントだった。2020年は開催中止、2021年は国内アーティストのみの出演によるウィズコロナ時代のフェスのあり方を模索し、議論を巻き起こしながらの開催となった。今回、2年ぶりに「早割」を復活させたことも、「いつものフジロック」に向けた意思表示のひとつだったろう。

出演アーティストが順次発表される一方、会場での完全キャッシュレス決済という新たな試みがアナウンスされるなど、感染症対策も含め順調に開催本番へと向かっていた。しかし、7月に入ると首都圏を中心に新型コロナウイルスの感染者数が急増。フジロック開催の直前には、WHO(世界保健機関)によって直近の1週間に日本の新規感染者数が世界最多にのぼったことが報じられる。また、開催直前・開催中も、体調不良によるアーティストの出演キャンセル(必ずしもコロナ陽性の検査結果によるものではないが)が相次いだ。不運というより他にないが、より慎重な姿勢が求められる中での開催となったわけだ。



開催本番にあたる7月29日・30日・31日。前夜祭を含めて筆者は全日程に参加したが、フジロック会場の感染症対策は周到に講じられていた。至る所に手指の消毒液が設置され、水場には常にハンドソープが補充してある。ライブエリア前方では、ソーシャルディスタンスを確保するための目印が設置され、水分補給のためのソフトドリンク以外は飲食禁止。マスク着用は必須(ただし、熱中症対策として開放的な空間であれば外してもよい、というもの)。もちろん、大声での発声は自粛が求められる。各ステージではライブが行われるたびにMCが登場し、以上の注意事項アナウンスをしきりに繰り返していた。並々ならぬ労力が注がれていたのは明らかだ。

突然の不運と困難を前に、参加者側にも柔軟かつ協力的な姿勢が求められる、極めてハードルの高い開催になったことは否めない。そこでは、海外アーティストや海外からの参加客も多いフジロックならではの、文化的な理解や姿勢の違いも浮き彫りになった。それでは以下、各日の来日アーティストのパフォーマンスを中心に、レポートを進めていきたい。


1日目・7月29日(金)

最大規模ステージであるGREEN STAGEのヘッドライナーは、ニューヨーク出身の人気バンドであるヴァンパイア・ウィークエンド。グループとしては、2018年のフジロック出演以来となる日本でのステージだ。序盤こそ、外部スピーカーへの出力不良でライブ中断というハプニングがあったものの、その後は明瞭なバンドアンサンブルによってユニークなポップソングを連発し、オーディエンスを魅了する。心をくすぐるように軽妙な響きではあるけれど、以前よりも重心のしっかりした頼もしい演奏だ。エズラ(Vo, Gt)が前回のフジロック出演を回想しつつ、披露されるのは「2021」。静謐で厳かな演奏がドラマティックに展開し、トーキング・モジュレーターも駆使して幻想的にフィニッシュする。本編終盤は人気曲できっちり盛り上げ、フィールドに地球儀型のバルーンも投入されたアンコールの最後はボブ・ディラン「Jokerman」をロックステディ風にカバー。チャーミングなポップサウンドはそのままに、トラブルをものともしない佇まいとサービス精神が際立つステージだった。


ヴァンパイア・ウィークエンド

この日、朝一番のGREEN STAGEを盛り上げたのは、モンゴル出身のメタルバンドであるザ・フー(THE HU)。2本のエレクトリック馬頭琴や口琴、そして雄々しいコーラスといった土着の音楽エレメントに強い誇りを伺わせる表現スタイルが実に格好いい。フジ帰還を果たしたオーストラリアのハイエイタス・カイヨーテは、筆者の移動時間の都合上少ししか観られなかったけれども、エキセントリックなブルーの衣装に身を包んだネイ・パーム(Vo。急遽ソロ名義でのフジ2日目出演も決定)を中心にエレガントな演奏とハーモニーワークが映える新作モードを見せてくれた。


ハイエイタス・カイヨーテ


ボノボ

WHITE STAGEに出演したニューヨーク出身のラッパー/プロデューサーであるJPEGMAFIAは、なんと香川トヨタ自動車のツナギを拝借・着用して登場。自らトラック出しをしつつ、勢いよくステージ上を跳ね回ってラップする。DTMミュージシャン界隈からも注目を浴びるトラックメイキングは奇抜なことこの上ないが、通訳を介してのMCや、カーリー・レイ・ジェプセン「Call Me Maybe」をアカペラでカバーする一幕もあり、フィジカルなエンターテイナー精神が存分に発揮されていた。ニューアルバム『Fragments』を携え、5年ぶりにWHITE STAGEへと帰ってきたUK出身のボノボ(BONOBO)は、今回もバンドセットで、エレクトロニックとオーガニックが溶け合う魅惑のライブを披露した。そして、米カリフォルニア出身のバンドであるドーズ(Dawes)は、「苗場音頭」(前夜祭の盆踊り)を出囃子にFIELD OF HEAVENに登場。キャッチーなアメリカン・フォーク・ロックを基調としながら、インプロヴィゼーションやジャムで変幻自在に高揚感を育んでしまう。そのライブ演奏の柔らかな支配力は逃れ難いものがあった。

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