サメ映画ブームを超えるのはゴリラ映画ブームだ

輸入盤DVDボックスセット『Sons Of Kong』(写真:筆者提供)

山﨑智之の軽気球夢譚(Tomoyuki Yamazaki presents The Balloon Hoax)」連載第4回……ということになると思う。サメ映画ブームを超えるゴリラ映画ブームへの予兆を検証する。

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2022年、世界的なサメ映画ブームが訪れている。このジャンルの金字塔である『ジョーズ』(1975)を頂点に幾多の作品が作られてきたが、現在のブームは『メガ・シャークVSジャイアント・オクトパス』(2009)『ダブルヘッド・ジョーズ』(2012)『シャークネード』(2013)とそのシリーズに代表される、志の低さとまぎらわしさでおなじみ“アサイラム”社による低予算映画を軸としたもの。ダメダメさを鼻で笑いながら見る風潮は、ガチなサメ映画ファンからすると痛し痒しだろう。とはいえ、本家の続編『ジョーズ2』(1978)『ジョーズ3』(1983)『ジョーズ87復讐編』(1987)からして正編の名を汚しかねない出来映えだったし、便乗公開された『シャーク・トレジャー』(1975)、サメをクマに置き換えた『グリズリー』(1976)、タコに置き換えた『テンタクルズ』(1977)、シャチに置き換えた『オルカ』(1977)など、決して作品に恵まれたムーヴメントでなかったことも事実だ。

もちろんサメ映画だからといってダメな内容とは限らない。『ディープ・ブルー』(1999)や『海底47m』(2017)、『MEGザ・モンスター』(2018)、『マンイーター』(2022)などは真っ正面から評価されるべき作品だろう。ただ、どうしても色眼鏡で見られてしまう傾向があり、『海上48hours 悪夢のバカンス』(2022)などは“ちゃんとした”サメ映画であるにも拘わらず斜め目線を誇張した宣伝をされたりしていた。

そんな不遇な扱いを受けてきたサメ映画に対して、コンスタントに名作を生んできたのがゴリラ映画である。

その嚆矢であり頂点といえる『キング・コング』(1933)は巨大猿が美女に恋に落ち、死へと至るという普遍的なドラマ性、当時の最高峰の視覚効果、フル・オーケストラで映像とシンクロした史上初の本格“映画音楽”などにより映画史に残る名作として、公開から90年近く経つ今日でも愛され続ける作品だ。その影響は強く、1976年・2005年にリメイクされているのに加えて、正編と同じ1933年には続編『コングの復讐』が公開されているし、姉妹作『猿人ジョー・ヤング』(1949)も作られるなど、“コング系”がひとつの潮流として確立された。1976年版の続編『キングコング2』(1986)はかなり批判の多い作品ではあるものの、好き者のマニアからは人気が高く、『ビッグ・ヒット』(1998)でネタに使われたりもしている。

『猿人ジョー・ヤング』


実は“コング系”大国なのが日本だったりする。オリジナル『キング・コング』公開から間もなく『和製キング・コング』(1933)『江戸に現れたキングコング』(1938)が作られているし、東宝の『キングコング対ゴジラ』(1962)『キングコングの逆襲』(1967)、“ウッホ、ウホウホ、ウッホッホ♪”という主題歌がカラオケで歌い継がれる日米合作TVアニメ・シリーズ『キングコング』(1967)などがある。手塚治虫の漫画『キングコング』(1950)は現在封印状態だが、TVシリーズ『ウルトラQ』(1966)のゴローなども含め、その影響の大きさを窺わせる。

イギリスの『巨大猿怪獣(コンガ)』(1961)『クイーンコング』(1976)、イタリアのマリオ・バーヴァ監督による『ベビーコング』(1976/未完成)などは伝説的作品となっているし、女ターザン・サマンサが登場する香港の『北京原人の逆襲』(1977)、韓流+キングコング+サメ、とコストパフォーマンスが高く、巨大ゴリラがヘリコプターをぶち壊して中指を突きつけるシーンが有名な韓国製の『A*P*E』(1976)、秘境の原住民が歌って踊るバングラデシュの『バングラ・キングコング』(2010)など、“コング系”映画はグローバルな現象となっているのだ。

さらにもうひとつの大きなフランチャイズとなったのが『猿の惑星』である。ピエール・ブールの小説を原作とした映画は1968年・2001年・2011年に映画化、SFに社会風刺を盛り込んで人気シリーズとなり、1974年にはTVシリーズ化もされた。日本では似たような設定のTVシリーズ『猿の軍団』(1974)も作られており、この番組の主題歌で“何するものぞ”というフレーズを覚えたちびっ子も多かったのではなかろうか。

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