サメ映画ブームを超えるのはゴリラ映画ブームだ

ゴリラ映画が魅力的な理由

ゴリラ映画が我々のハートを捉えるのは、以下のような理由が考えられる:

(1)サル(特に類人猿)の表情や思考パターン、手足の動作は人間に近いため、感情移入をしやすい。

(2)海中に住むサメと違ってサルは地上に住むため、建物やセットを破壊するスペクタクルを演出しやすい。

(3)天才的な視覚効果の職人に恵まれてきた。『キング・コング』(1933)のウィリス・H・オブライエン、『猿人ジョー・ヤング』(1949)のレイ・ハリーハウゼン、『キングコング対ゴジラ』(1962)の円谷英二、『猿の惑星』(1968)のディック・スミス、『キングコング』(1976)のリック・ベイカーなど映画史に冠たる偉大なスタッフが生命を吹き込んできた。

(4)映画というものが生まれる前からジョナサン・スウィフト『ガリバー旅行記』(1726)やエドガー・A・ポー『モルグ街の殺人』(1841)のように“人間のようで人間でない”類人猿の恐怖が植え付けられてきた。

近年も『キングコング 髑髏島の巨神』(2017)『ランペイジ巨獣大乱闘』(2018)『ゴジラVSコング』(2021)など“コング系”のクラシックスが生まれてきたし、『レディ・プレイヤー1』(2018)や『スペース・プレイヤーズ』(2021)にはキング・コング“本人”がゲスト出演している。

それ以外にも『縮みゆく女』(1981)『グレイストーク〜類人猿の王者〜ターザンの伝説』(1984)『ハリーとヘンダスン一家』(1987)、『愛は霧のかなたに』(1988)『コンゴ』(1995)、『猿人ジョー・ヤング』のリメイク『マイティ・ジョー』(1998)など傑作が多い。まさにサル(特にゴリラ)映画に駄作なし!なのである。

だが、そんな命題に真っ向から挑戦してくるのが輸入盤DVDボックスセット『Sons Of Kong』だ。米“アルファ・ホーム・エンタテインメント”から発売された本作(発売年が記されていないがたぶん2005年頃)は3枚のDVDに10本のゴリラ映画が収録されている。
その内訳は:

- 『The Ape』(1940/日本未公開)
- 『ジャングルの騒動 Bela Lugosi Meets A Brooklyn Gorilla』(1952/日本TV放映)
- 『ゴリラの脅迫状 The Gorilla』(1939/日本TV放映)
- 『ベラ・ルゴシの猿の怪人 The Ape Man』(1943/日本未公開)
- 『Bride Of The Gorilla』(1951/日本未公開)
- 『The Savage Girl』(1932/日本未公開)
- 『The White Gorilla』(1945/日本未公開)
- 『Law Of The Jungle』(1942/日本未公開)
- 『White Pongo』(1945/日本未公開)
- 『ゴリラ姫ナボンガ』(1944/日本映画祭公開)

というものだ。

いずれも巨大ゴリラではなく、着ぐるみの等身大ゴリラあるいはサル人間。都市部やジャングル(=スタジオ近所の森林)でゴリラが暴れて女性がキャーと悲鳴を上げる単純明快なストーリーは、複雑で面倒臭いストーリーに慣れた若い映画ファンには新鮮に映るだろう。

ドラキュラ伯爵のベラ・ルゴシが化学実験でサル人間になる『ベラ・ルゴシの猿の怪人』、フランケンシュタインの怪物のボリス・カーロフが住む田舎町をゴリラが襲う『The Ape』、オオカミ男のロン・チャニーJrと『怪獣王ゴジラ』(1956)で知られるレイモンド・バーが夢の共演を果たす『Bride Of The Gorilla』、フラッシュ・ゴードンのバスター・クラブが出演、ストーリー的にもけっこう気合いが入っている『ゴリラ姫ナボンガ』などホラー/SF/怪獣映画ファンならご存じの俳優が総出演するのも嬉しい。まあ、いずれも決して素晴らしく面白いものではないが、だいたい70分未満の長さのため、飽きて眠りに落ちる前に終わってしまうというメリットもある。

『The Ape』


14時間以上しみじみと低予算ゴリラ映画を見ることは写経に通じる修行ともいえるものの、全10作を見終わったときの達成感は何にも代え難い。

ちなみにこの『Sons Of Kong』、DVDパッケージが“飛び出す絵本”仕様で、立ちはだかる巨大ゴリラと逃げまどう美女が3-D化されているのもちょっとだけ嬉しい。

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