マカヤ・マクレイヴンが語る、時空を超えたサウンドを生み出すための方法論

マカヤ・マクレイヴン(Photo by Sulyiman Stokes)

 
ジャズ・ミュージシャンはこの30年、ヒップホップやテクノ、ハウスやダブステップなど、様々な音楽が出てくるたびにそれを生演奏に置き換え、その技術を応用することで新たなサウンドを生み出してきた。ブレイクビーツやドラムンベースを人力で叩き、複雑なビートのニュアンスを生演奏で表現しつつ、即興演奏を盛り込んだセッションに取り込んでいく。プログラミングによって作られた音楽を乗り越えていくこと、それはつまりプレイヤー側による、プロデューサー側へのリアクションの歴史だったとも言えるかもしれない。

だからこそ、2015年にマカヤ・マクレイヴン(Makaya McCraven)が台頭したときは戸惑った。International Anthemというシカゴの新興レーベルからリリースされた1stアルバム『In The Moment』には、突出した演奏スキルと、それに引けを取らない高水準のプロダクションが同居しており、その両方にマカヤの名前がクレジットされている。DAWも楽器と同様に扱い、即興演奏の延長線上でポストプロダクションを行う。彼はプレイヤーなのか、それともプロデューサーなのか。結論から言えば「どちらでもある」わけだが、そんなジャズ・ミュージシャンは当時ほとんどいなかった。

2018年の2作目『Universal Being』ではNY、LA、シカゴ、ロンドンの4都市で現地のミュージシャンと録音。それぞれの都市に根付く音楽性をサンプリングするように取り込み、それぞれのスタイルにいとも容易く対応しながら即興セッションを行い、そこに緻密なエディットを施している。レタッチの痕跡に気づくことすら困難なレベルで、どこまでが実際のライブ演奏で、どこまでがサンプリングして重ねた音なのか、その境界線は限りなく曖昧になっていた。その後、2020年の『We’re New Again』ではギル・スコット・ヘロン、2021年の『Deciphering The Message』では50年代〜70年代までのブルーノート・レコード楽曲と自身の演奏やプロダクションを融合させ、カタログ音源の解体・再構築に新たな可能性を提示した。

そんなマカヤ・マクレイヴンの最新アルバム『In These Times』は、International Anthem、Nonesuch、XL Recordingsの共同リリースというトピックも含めて、2022年の本命というべき一作だ。一聴しての印象は、ストリングスを加えた大きな編成のために丁寧な作編曲が施され、そのなかのスペースで即興も行われているジャズ楽曲。マカヤならではの変拍子を駆使した演奏を軸とし、ジェフ・パーカーやジョエル・ロス、ジュニアス・ポールといった名手たちが卓越したプレイで貢献している。

しかし、クレジットを見てみると、マカヤは明らかにひとりでは演奏できない数の楽器を同時に奏でているし、よくよく聴くと不自然な部分が多々存在している。それもそのはず。7年もの制作期間が費やされた本作は、様々な時期に様々な場所で行った録音を、繊細かつ大胆に繋ぎ合わせた「疑似セッション」から生まれたもの。丁寧に書かれた旋律や和声の豊かな響き、先鋭的なリズムのなかにさりげなく仕込まれた(限りなく聴き取りづらい)違和感が作用することで、未知の質感やフィーリングが生まれており、それこそが『In These Times』の魅力とも言えるだろう。作編曲と即興、ポストプロダクションを巧みに統率することで、古典的な意味での「譜面に書かれた楽曲」のように聴かせる。「プレイヤーなのか。プロデューサーなのか」なんて枠組みを軽々と飛び越え、マカヤは僕らの固定観念を突き崩していく。

彼はこのアルバムのストーリーを自信たっぷりに語っている。このインタビューが、掴もうとすればすり抜けていく怪作を理解するためのヒントになれば幸いだ。



―『In These Times』のコンセプトを教えてください。

マカヤ:これは僕が長い間構想してきたリズムに関するコンセプトを反映した作品で、8分の5拍子、8分の7拍子、8分の9拍子、8分の11拍子などの変拍子を扱っている。かといって、必ずしも「これは何分の何拍子で……」と拍子記号を頭で理解する必要はなく、むしろ身体で感じてもらうための音楽なんだ。この変拍子を人と人の間につながりを生み出すような、リズムやグルーヴや感覚として捉えてもらうのが狙いだった。

それに、ここでは「時間」も重要なコンセプトだ。聴いた人がリズムを通してどのように時間を解釈するのか。また、聴いた人が時間やリズムとどのように繋がるのかということに焦点を置いている。そういったリズムや時間に、様々な場所や空間、社会的要素などの環境が絡み合い、『In These Times』が(聴き手によって)解釈されるような表現になっているんだ。

―そのリズムや時間のアイデアについて、もう少し聞かせてもらえますか?

マカヤ:このアルバムは、ある特定のアイデアというよりもプロセスに焦点を置いている。だから、その瞬間にいること(In The Moment)だったり、この時代・時間にいること(In These Times)がテーマになっている。

また、時間というものは、僕たち自身が解釈するものであるということ。このアルバムには面白い拍子記号のリズムが常にあって、それはあらゆる人にとって心地良く感じるものであり、同時に少し変わった、奇妙なものとして感じられるものにしたかった。それは僕にとっては、過去と未来を行き来しながら楽しんでいるような感覚なんだ。僕たちは、自分たちがどこから来たのかということを知っている。そして近い未来、どうなるかという想像もつく。そして、そのさらに先はあまり見えないから、その不確定さに対して少し不安になってくる。過去に生きている人でも、未来に生きている人でも、そういう過去に対する気持ちや、未来に対する気持ちは普遍的なもので、誰でも共感できるものだと思うんだ。その瞬間にいること(In The Moment)や、この時代・時間にいること(In These Times)という概念も、瞬間や時間は常に流れているから、勝手に進んでいるという状態なんだ。

つまり、常に行動しているということ。僕たちは常に先に進んでいて、進化の過程にいるということ。僕は今回、リズムとサウンドを通して、このプロジェクトの全体的なコンセプトを表現したかった。

 
 
 
 

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