マカヤ・マクレイヴンが語る、時空を超えたサウンドを生み出すための方法論

 
進化のプロセス、ストリングスの背景

―制作方法に関して、過去2作とはどんな違いがありますか?

マカヤ:『In The Moment』と『Universal Beings』は似たようなコンセプトやテクニックを用いた作品だった。少人数の規模でミュージシャンとセッションを行い、即興的な作曲、つまりその場でみんな一緒に音楽を作っていき、それをレコーディングしている。そしてポストプロダクションの過程で、トラックを編集してビートを作ったり、トラックを再配置したりすることで、新たな作曲のあり方を試みている。

それに対して、今回の『In These Times』は僕が作曲した音源がベースになっている。その作曲したものをスタート地点として、より大人数のアンサンブル向きの音楽へと編曲したんだ。そうやって作られた曲には、自分が『In The Moment』や『Universal Beings』の制作期間に編み出した編集やプロダクションのテクニックを加えたりもしている。さらに『In These Times』では、過去2作の制作を通してライブバンドと一緒にやっていた演奏なども含まれている。だから僕は、このニューアルバムを『In The Moment』や『Universal Beings』を制作していた時にも(並行して)作っていたんだよ。

過去2作は様々なプロダクション技術を使っているけど、『In These Times』はリズムに関するアイデアや、自分で作曲した音源などがベースになっている。『In The Moment』と『Universal Beings』をリリースした時も、僕たちはツアーで『In These Times』に収録されている音楽をライブで演奏していたんだ。だから先の2枚は、『In These Times』の発展に大きな影響を与えたと言える。アルバムを作るたびに、僕は新しいことを学んできたし、新たな気づきがあったからね。そういう経験があったからこそ、ストリングスやその他の楽器を含む大人数のアンサンブルを演奏するための基盤ができて、今回のような作品が作れたのだと思う。全ては進化のプロセスなんだ。『In These Times』は、過去2作とコンセプトやスタート地点は違うけれど、最終的には全ての作品が僕のスタイルとして『In These Times』に集約されているんだ。



―『In These Times』のレコーディングを7年前に始めたとのことですが、なぜ『Universal Beings』の方が早く完成したんですか?

マカヤ:『In The Moment』の後、自分のキャリアの勢いが増していたからだと思う。僕はもともと即興演奏のライブを数多くこなしてきて、それがすごく順調だった。『In The Moment』は何もないところから、いきなり出来上がったような作品だった。そこからInternational Anthemとの交流も生まれたから、『In The Moment』のツアーが終了したら、次のアルバムに向けての録音を始めようと思っていた。そして、実際に何度か録音することができた。

それ以外にも色々な出来事があって、「この都市や、あの都市で録音してみよう!」という企画もあった(『Universal Being』で作品化)。そうこうしているうちに、「今は『In These Times』の制作をするタイミングではない」と思うようになったんだ。その前に、自分はまだ学ぶべきことがたくさんあると思ったんだよね。そこからは、時期を待つようになっていった。さらに、XLからギル・スコット・ヘロンに関するアルバム『We’re New Again』を提案されて引き受けたし、その後はブルーノートとの企画『Deciphering The Message』があった。そんな感じで次から次へと色々な出来事があったんだよ。

でも僕は、ツアーをするたびに『In These Times』からの曲を演奏していた。『In The Moment』のツアーでも「This Place That Place」や「Lullaby」を披露したし、『Universal Beings』や『Deciphering The Message』のツアーでも『In These Times』の収録曲を演奏している。だから『In These Times』の楽曲は、僕が昔からツアーバンドと一緒に演奏してきたレパートリーの一部で、それをアルバムという形で収めていなかっただけなんだよ。



2015年のライブ映像、ニューアルバムの収録曲「This Place That Place」を演奏している

―『In These Times』はストリングスのサウンドが印象的です。その狙いについて聞かせてください。

マカヤ:自然な流れでそうなったんだよ。

『Universal Beings』は4つの異なる都市で行った、トリオやカルテットによるセッションの音源がベースになっていた。その同作をリリースしたあと、大規模なコンサートをやる機会があったんだ。そこではアルバムのような小編成ではなく、様々な都市からなるべく多くのミュージシャンたちを呼んだ。ミゲル・アトウッド・ファーガソンやブランディー・ヤンガー、ベース奏者のデズロン・ダグラス、ジュニアス・ポール、ジェフ・パーカー、ヴィブラフォン奏者のジョエル・ロス、シャバカ・ハッチングやヌバイア・ガルシア、マーキス・ヒルなどのブラス奏者にもたくさん参加してもらった。その結果、『Universal Beings』のコンサートをやったあとも、大規模なコンサートの依頼が引き続き来るようになったんだ。そこから次第に、僕も大人数のプロフェッショナルなミュージシャンをまとめた演奏についてよく考えるようになった。

それで2019年に、Walker Art Center(ミネアポリス市にある美術館)でマルチメディアを組み込んだ『In These Times』のパフォーマンスをやる機会にも恵まれた。そのパフォーマンスに向けて、大人数編成のアイデアをさらに発展させ、ストリングス奏者も一人だったものを四人へと拡大させていった。そして、そのときのパフォーマンスを録音したんだ。その録音もアルバムに使っている。また、Walker Art Centerでやったコンサートと同じものをChicago Symphony Orchestra Hallでもやったんだけど、そのときの録音もかなり使っている。あとはスタジオで録音した音源も使っているし、In These Timeというシカゴの雑誌社(70年代から続くシカゴのインディペンデントな雑誌。広告を取らず、寄付や実売のみで運営する真摯なジャーナリズムで知られる)のオフィスでレコーディングしたものもある。

だから、大人数のミュージシャンをまとめるというのは、自分のキャリアの流れから自然に発生したものだし、このアルバムには自分が初期の頃からやりたかったことや、他のアルバムやプロジェクトを手がけている時に学んだこと、録音された音源などが全て含まれている。自分が作曲した音楽や作ったリズムから派生して、次第にオーケストラを扱った作品へと発展していったんだ。だから自分の進化における、様々な断片や要素がたくさん織り込まれた作品なんだ。



―アルバムのテーマが「プロセス」だと話していたのも、そういうことですよね。ストリングスのアレンジに関して、影響を受けたアーティストや作品はありますか?

マカヤ:ストリングスのアレンジを実際に始めるまで、特定のアーティストや作品を意識したことはなかったと思う。だから直接的な影響は受けていないかもしれないけれど、もし唯一挙げるとしたら、このアルバムの制作中に、チャールズ・ステップニーの音楽を教えてもらったことが関係しているかもしれない。

すでにストリングスのアレンジは始めていたんだけど、ベース奏者のジュニアス・ポールに「チャールズ・ステップニーをチェックしろ」と言われたんだ。ステップニーのことは名前も聞いたことがなかったけれど、ジュニアスはステップニーの家族と親しい付き合いがあったから、彼を介してチャールズ・ステップニーの娘たちと会う機会があって、そこでも彼の音楽についていろいろ知ることができた。その経験はオーケストレーションやプロダクションのクリエイティブな使い方、様々な楽器をまとめるうえでのインスピレーションになっていると思う。彼はシカゴ出身の編曲者だったし、自宅のスタジオで作曲をしていた人だからね。

ここで告知をしたいんだけど、いいかな?

―どうぞ。

マカヤ:最近、International Anthemがチャールズ・ステップニーの未発表曲集『Step on Step』をリリースしたんだ。だから、僕たちはみんなここ最近、ステップニーの膨大な量のアレンジや作品を知ることによって、自分たちの作品のインスピレーションを受けているんだ。

―ステップニーの音源の中で特に気に入っているものは?

マカヤ:ラムゼイ・ルイスの「Opus #5」は興味深かった。ロータリー・コネクション「I Am the Black Gold of the Sun」も彼のアレンジやストリングスの才能がよく表れていると思うよ。




 
 
 
 

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