マカヤ・マクレイヴンが語る、時空を超えたサウンドを生み出すための方法論

 
楽譜とポストプロダクションの境界線

―セッションやリモートでの新しい録音に関しては、あなたはどのような方法で他の演奏者と楽曲を共有したのでしょうか? 例えば、譜面とか、デモ音源とか。

マカヤ:このアルバムは様々なセッションを通して、様々な形へと変化して進化していった。だから曲はあらゆる方法で存在していたよ。コンサートのための譜面もあったし、そのコンサートを録音した音源を、僕がさらに編集した音源もある。

例えば、「Lullaby」は(シカゴの)Symphony Centerのパフォーマンスだから、(即興を含んだ)オーガニックなパフォーマンス。でも他の曲は、そういうオーガニックなパフォーマンスは一部だけで、それ以外は楽譜に書かれたものかもしれないし、プレイヤーが耳で聴いて覚えて演奏した曲かもしれない。ストリングスはコンサートのためにアレンジしたものだから譜面はあるよ。でも、そのコンサートの録音に僕がさらにストリングスを重ねた部分もある。自分の音源を他のプレイヤーに送って、それに合わせて彼らが演奏した録音を送ってもらうケースもあった。ロックダウン中、僕のスタジオにプレイヤーが来て録音するケースもあったよ。

―あらゆるケースがあったと。

マカヤ:そういうこと。プレイヤーと曲を共有するには色々な方法があって、『In The Moment』の時のように、あるセッションの即興演奏をトラックのベースとして使ったり、ストリングスの音源をサンプリングして、それを基に新しいストリングスのセクションを作り上げたりもしている。僕は今でもこのアルバムをどうやって進化させていこうか考えているんだよ。もう制作は終わってしまったんだけどさ。


自身のスタジオで、生演奏とビートメイクの関係性について語るマカヤ・マクレイヴン(2019年)

―ちなみに、特に譜面の割合が高い曲はどれですか?

マカヤ:「In These Times」だね。このアルバムのために書いた曲で、アルバムのタイトルが決まった時にオーケストラ向けに書いたものだったから。「Lullaby」は(ハンガリーのフォークミュージックを歌っていたシンガーである)母親が作曲したもので、僕の初期のバンドから演奏しているレパートリー。ずっと昔から演奏してきた曲なんだ。この曲のストリングスのパートは、母親のアドリブをアレンジして書いたものだよ。母親の歌声とメロディをアンサンブル向けに編曲したんだ。

「This Place That Place」は僕が作曲したもののなかで、最も古いものかもしれない。リズムの複雑さとグルーヴが心地よく交差するところをとことん追求した曲なんだ。だから数えきれないくらいのアレンジがあるんだよ。色々な方法で今まで演奏してきたし、自分自身も色々な方法で譜面に書き留めてきたんだ。



―今回のアルバムでは、ブランディー・ヤンガーが演奏するハープが鍵になっていると思います。彼女をひとりの即興演奏家として起用しているだけでなく、アレンジ全体のためにハープのサウンドを効果的に配置しているのが印象的です。

マカヤ:僕とブランディーは長年の付き合いで、僕たちは良い友人でもありコラボレーターでもある。彼女と仕事をするようになったのは『Universal Beings』のときだった。あのアルバムでハープを加えたこと、ミゲル・アトウッド・ファーガソンと一緒にストリングスのアレンジをやったことによって、僕とブランディとの関係性がさらに強化されたし、僕がオーケストラを意識したサウンドに傾倒する要因にもなった。彼女のハープが僕のサウンドの一部になっていったんだ。

このアルバムに参加しているミュージシャンは僕が、長い年月をかけて関係性を培ってきた人たちばかり。だからファミリーで作ったアルバムって感じがするよ。僕がNYにいるときは、ブランディに連絡して今NYにいるか聞いたりする。そういう関係性がアルバムのサウンドや方向性にも自然に影響を与えていると思う。そして、僕がこれまでの過程で出会い、一緒に活動してきたミュージシャンたちがファミリーとして僕を助け、このアルバムを一緒に作り上げてくれた。このアルバムのサウンドは、色々な人たちとの関係性が発展するにつれて出来上がっていったんだ。

僕は自分の活動に対して、あらかじめ具体的なことを決めないようにして、むしろプロセスやステージをセッティングするだけにしている。そこに自分が良いと思う人を引き込み、十分な関係性が育まれる時間さえ与えれば、すんなり行かずに蛇行しながら進むことになるかもしれないけれど、それでも何らかのものが出来上がる。それを続けていたら、「今」というこの時点に辿り着くことができたんだよね。




―なんだか達観していますね。ハープのアレンジに関してインスピレーションになったものはありますか?

マカヤ:あまり具体的なものはないけれど、ブランディーと一緒に仕事することになってから、ハープという楽器とその可能性についての視野を広げることができたと思う。それに、ドロシー・アシュビーやアリス・コルトレーンの作品を意識的に聴くようになった。ブランディーと一緒にライブをやったり、彼女がドロシー・アシュビーの曲をカバーしたのを聴いたりすることで、ハープがリード楽器として使える瞬間があると気づけたんだ。

ドロシー・アシュビーのアルバムは、サウンドがとてもリッチだし、編曲もふんだんに行われている(名アレンジャーのリチャード・エヴァンスが手掛けている)。70年代特有のオーケストラ・サウンドだ。今回のアルバムを作るにあたって意識したのはそういうサウンドだったね。大人数のアンサンブルによる、スタジオで作られたサウンドで、オーケストラ向けのサウンドとファンキーなサウンドの間に存在する音ってこと。

それでいて『In These Time』は、隠れた名盤(ディープカット)みたいにもしたかった。僕は昔のレコードを聴きつつも、フレッシュになるような工夫をしてみたり、色々な方向性や時代性を試している。それに僕は、特定の何かをしなければいけないとか、どちらかの方向にいかなければならないって感じの決めつけはしない。アルバム制作中に、自分で自分自身に問いかけたことが何度もあったよ。「これは、どういうふうにやればいいんだろうか?」「もっとこういうふうにすればいいんだろうか?」って。でも最終的にわかったのは、「なるようになればいい」ということだったね。






マカヤ・マクレイヴン
『In These Times』
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日本盤CD:解説付き、ボーナストラック追加収録
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