WONKのザ・ルーツ来日公演体験記 ビルボードライブの魅力を語る

WONK、Billboard Live TOKYOにて撮影(Photo by Masanori Naruse)

ビルボードライブは世界標準のライブレストランとして、これまで国内外から2,500組以上もの一流アーティストを招聘。独自のブッキングと上質な空間が多くの音楽ファンに愛されてきた。今年8月には開業15周年を迎え、豪華アーティスト達によるプレミアムライブも話題に。そこで今回は、学生時代からビルボードライブに通い続け、この夏に出演も果たしたWONKに体験レポートを依頼。伝説的ヒップホップ・バンド、ザ・ルーツの来日公演(8月27日、Billboard Live TOKYO)を訪れた4人に、ヴェニューへの思い入れを語ってもらった。



左から江﨑文武(Key)、井上幹(Ba)、長塚健斗(Vo)、荒田洸(Dr)
Photo by Masanori Naruse



4人が振り返るビルボード初体験 

8月5日、WONKが「artless Tour 2022」のファイナルをBillboard Live TOKYOで開催した。他のアーティストのサポートをしたり、フィーチャリングで参加したりと、メンバー個々では度々出演してきたものの、学生時代から憧れを持って通っていたこの会場で、WONKとしてワンマン・ライブを行ったのは意外にも初めてだった。



井上:最初に来たのはたぶん高校生のときで、SMVを観ました。スタンリー・クラーク、マーカス・ミラー、ビクター・ウッテン、ベーシスト3人の超絶グルーヴを体験したときですね。印象に残ってるのはZappが来たときに、メンバー全員が列車になってフロアを練り歩いて、そこに僕も加わって、最後まで着いて行ったらステージに乗れたんです。そこでみんなで「イェーイ!」ってなって曲が終わるっていう、最高なステージでした。

荒田:俺もSMVが最初かもしれない。その後で強烈に覚えてるのは、浪人時代に観に行ったロバート・グラスパー。あまりにもライブが良過ぎて、次の日も観に行ったのはそれが初めて。あとは高校生のときに観たママズ・ガンもよく覚えてます。

江﨑:最初に行ったのはBillboard Live FUKUOKAなんですけど(2009年閉業、江﨑は福岡の出身)、小6とか中学生くらいのときに、親と一緒にハンク・ジョーンズのトリオを観ました。あとは割と最近ですけど、ユセフ・カマールのライブはよく覚えてます。マネージャーに勧められて、あまり前情報も知らずに観に行ったんですけど、いい意味でラフな、すごくいいライブでした。

長塚:大学を卒業したくらいに観たホセ・ジェイムズが最初ですね。あとハイエイタス・カイヨーテのネイ・パーム以外が3人のプロジェクト(スウーピング・ダック)で出演したときがあって、すごい良かったんですけど、途中でゲストとしてネイ・パームが出てきて、『これ、ハイエイタス・カイヨーテじゃん!』と思った記憶があります(笑)。


WONK「artless Tour 2022」ファイナル公演、8月5日にBillboard Live TOKYOで開催
Photo by Kosuke Ito



観客/出演者としてビルボードを語る 

ビルボードライブといえば、一般的なライブハウスとは異なるラグジュアリーな空間が大きな魅力。六本木の東京ミッドタウン内にあるBillboard Live TOKYOは、3層構造のフロアにバリエーション豊かなシートが設けられ、一流シェフによる料理(現在のおすすめは、荒くミンチしたパティから溢れる肉汁と、旨味の強いチーズの味わいがたまらないハンバーガー・TOKYO“CLASSIC”)と選りすぐりのドリンクを楽しみながらパフォーマンスを堪能できる。ステージ後方の高透過ガラス越しに広がる、きらびやかな都会の夜景も美しい。


Billboard Live TOKYOの場内写真


TOKYO "CLASSIC"
東京の音楽・文化シーンと、さまざまな調理法を熟知したシェフが手がけるBillboard Live TOKYOのスペシャリテ

江﨑:子どもの頃は「大人の空間だな」と思ってましたけど、当時は音楽好きの親に連れてきてもらってたから、「余計なことは考えずに楽しめ」みたいな感じで、値段とか全然気にしないで食べたいものを食べてましたね(笑)。ライブ終わりにCDを買って、サインをしてもらったりとか、とことん楽しんでました。あと、東京のビルボードはステージの後ろがガラスになってるのが格好良過ぎますよね。福岡のビルボードは地下のライブハウスみたいな感じだったから、上京して初めて東京のビルボードに来たときは衝撃でした。

井上:僕も最初は緊張して「大人ってすげえ」みたいな感じだったんですけど、ジャズとかクロスオーバーのバンドはこういう会場でやるんだっていうのを知って、だんだん楽しめるようになりました」



敷居が高そうと思われるかもしれないが、無理に着飾る必要はないし、1ドリンク付きのお得なカジュアルエリアも用意されており、若い方やお一人様でも気軽にライブを楽しめる。

井上:高校生の頃は食事するのもビビってたけど、社会に出たらその反動で「これが食べたかったんだよな」みたいな感じで、ステーキを食べたりもします。

荒田:俺は酒を何杯も頼むから、つまみをいただくことが多いかな。

江﨑:自分のお金で来るようになってからは、ポテトで粘る術を身につけちゃって。もし今日ステーキを食べたら「WONK、ポテトを脱する」って見出しになっちゃうね(笑)。


カジュアルエリアのバーカウンター前。ドリンクや軽食を気軽に楽しめる。
Photo by Masanori Naruse



ビルボードライブでは飛沫防止のアクリルパテーションを設置するなどコロナ感染対策を徹底。安心してライブを楽しむことができる。
Photo by Masanori Naruse


WONKが初めてBillboard Live TOKYOのステージに立ったのは、バンド結成から4年後の2017年3月。LUCKY TAPESとの共演だった。ステージと客席との距離の近さや、優れた音響設備でも知られるビルボードだが、実際に出演してみて思ったことは?

井上:観る側でも演る側でもそうなんですけど、ドラムの生音が結構聴こえたり、普通のライブハウスとは音の聴こえ方が全然違うから、そこは楽しいですね。でかいホールとかだとイヤモニで音を聴くから、テンションが一定に保たれるんですけど、ビルボードは生音が聴こえるから、それを注意深く聴くことで、演奏にダイナミクスがつく。

荒田:他の会場とは違う分、難しいなと思うこともあります。でもクリス・デイヴとか本当にすごいドラマーが演奏すると、音源通りの音が鳴ってるようにも聴こえるし、ちゃんと生感もあって……なんだろう、あの感じ。すごいなと思いつつ、僕も頑張ろうと思わされます。

長塚:オールスタンディングのライブハウスだとお客さんの肩から上くらいしか見えないけど、ビルボードだとテーブル席のお客さんは全身が見えるので、挙動が分かりやすいんですよね。後ろの方で顔を真っ赤にして超ノリノリの人がいれば、食い入るように聴いてくれる人もいるし、中にはくっちゃべってる人もいて、「ちゃんと聴け!」とか思ったり(笑)。そうやって一人一人がよく見える分、最初はすごく緊張もしたけど、最近はお客さんの様子からこっちがいろんなものを受け取れる気がして、この感じは他にないですね。


WONK「artless Tour 2022」ファイナル公演、8月5日にBillboard Live TOKYOで開催
Photo by Kosuke Ito


6月からスタートした「artless Tour 2022」は生演奏に回帰した最新アルバム『artless』のモードを反映して、久々にメンバー4人のみでツアーを敢行。ファイナルのBillboard Live TOKYO公演のみ、サポートにサックスのMELRAWとギターの竹之内一彌が参加した。アンコールで「Umbrella」を演奏すると、バンド初のドキュメンタリー映画『Documentary of artless —飾らない音楽のゆくえ—』の予告映像が流れ、「まだ『artless』は終わらない」のメッセージとともにツアーが終了。今年のWONKはまだまだ動き続ける。

荒田:「ラストだぜ!」みたいな緊張はなかったかもしれない。ツアーを積み重ねながら進化したことを、安藤さん(MELRAW)たちと一緒にビルボードで昇華できました。

長塚:このあと映画も控えているし、「ファイナルだからこれで終わり」じゃなくて、「これからもよろしく」みたいな感じですね。




Billboard Live TOKYOの物販エリア。この日はザ・ルーツ来日記念Tシャツが大好評。
Photo by Masanori Naruse



ザ・ルーツへの想いとライブの衝撃 

WONKの4人も待ち望んでいたのが、ビルボードライブ創業15周年を記念して8月に東京・横浜・大阪で開催された、ザ・ルーツの9年ぶりとなる来日公演。生演奏ヒップホップの先駆けとなったレジェンドであり、ドラマーのクエストラヴはソウルクエリアンズの創設メンバーとして、ディアンジェロの『Voodoo』をはじめとした歴史的名盤に多数参加してきた。WONKにとって指標となるバンドのひとつであり、特に荒田と井上の思い入れは強い。今回の取材はBillboard Live TOKYOの場内で行われたのだが、すでにステージ上にセッティングされていたザ・ルーツの機材を眺めながら、「これだけで飲めるな」と嬉しそうに話していたのが印象深い。

井上:出会ったときの衝撃は忘れられないですね。初めて聴いたのは高校生くらいで、(代表作の)「Things Fall Apart」は後追いだったんですけど、「The Next Movement」のMVを観て、最初のスネアの音に全てが詰まっていて。

荒田:そう! ドラムの録り音に関しては常にクエストラブを研究していて、いつも幹さんと2人で『どうやったらあんな音になるんだろう?』と話していて。『Voodoo』のドラムのサウンドもWONKでレコーディングをするときはいつも肝になってるし、「The Next Movement」は打ち込み寄りだけど、個人的にはクエストラブがプロデュースしてるアル・グリーンの『Lay It Down』のナチュラルなサウンドもすごく参考にしていて。打ち込み寄りの音もナチュラルな音も全範囲クエストラヴでカバーできるので、自分にとっては常にベンチマークですね。


「THE ROOTS Billboard Live 15th Anniversary Premium Live」8月27日の1stステージ
ザ・ルーツの頭脳、クエストラヴ
Photo by Masanori Naruse



看板ラッパーのブラック・ソート
Photo by Masanori Naruse


そんなザ・ルーツのライブは、90分間ほぼノンストップのパワフルな内容だった。自分たちの曲のみならず、J・ディラやカーティス・メイフィールドなど往年の名曲カバーも惜しみなく演奏。特に後半はファンク色も強く、現在のモードと懐の広さが感じられた。ビルボードライブの歴史に刻まれるであろう素晴らしいパフォーマンスで、WONKの感想からも興奮が伝わってくる。

長塚:クエストラヴのどっしりしたビートに震え、個々の超絶テクニックに終始圧倒されました。何より目まぐるしい展開の随所に散りばめられた、彼らのエンタメ精神に心を鷲掴みにされました。あのライブを見ながら食べるTOKYO "CLASSIC"は本当にスペシャルな味わいでした。

江﨑:とにかくビートが心地良すぎて、気付かぬうちにノリにノってしまい、公演中にポケットの中のものが全部落ちました。個々の技量の素晴らしさはもちろんのこと、最高のエンターテイナーだったことが印象的です。




ザ・ルーツによるノンストップの演奏に沸き立つ観客
Photo by Masanori Naruse


井上:自身の曲に留まらず、ありとあらゆる往年の名曲を間髪入れずに演奏するスタイルはまるで上質なDJのプレイを聴いているよう。と思ったら楽器のソロが始まって超絶テクニックで盛り上がり、色々な楽しみ方が詰まった最高のライブでした。「Proceed」がはじまったときは嬉しすぎて両手を挙げてました。

荒田:クエストラヴのスネアサウンドだけで涙が出そうになりました。難しいテクニカルなドラミングはしていないのに、スネアの一打一打であんなにも人を感動させられるのは本当に凄いの一言です。そして、最初の一曲から全力投球のセットリスト。後半で落ち着いた雰囲気のセクションがあるのかなぁと思って観ていましたが終始ギアを上げ続け、気づいたらライブが終わってしまいました。最後の最後までギアを上げ続け、人々を魅了できるザ・ルーツは文句なしのレジェンドでした。



WONK
東京を拠点に活動するエクスペリメンタル・ソウルバンド。2016年に1stアルバムを発売して以来、国内有数の音楽フェス出演や海外公演の成功を果たし、国内外のビッグアーティストへ楽曲提供・リミックス・演奏参加するなど多方面から支持されている。2022年5月、ニューアルバム『artless』を発表。9月より初のドキュメンタリー映画『Documentary of artless —飾らない音楽のゆくえ—』を東京・博多・梅田で順次公開。10月15日(土)ビルボードライブ大阪に出演。

"Billboard Live OSAKA 2022"
2022年10月15日(土)
1st Stage:Open 15:30 Start 16:30
2nd Stage:Open 18:30 Start 19:30
料金:Service Area:¥7,500 / Casual Area:¥7,000
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『Documentary of artless —飾らない音楽のゆくえ—』
2022年10月14日(金)大阪・梅田ブルク7
2022年10月21日(金)福岡・Tジョイ博多
2022年10月22日(土)・23日(日)東京・グランドシネマサンシャイン池袋
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