追悼クーリオ 90年代を彩った「slippity-slide(しなやかに世間を渡る)」の美学

1996年1月、アムステルダムのParadisoにて(Photo by FRANS SCHELLEKENS/REDFERNS/GETTY IMAGES)

さらば、偉大なるクーリオ。先日59歳でこの世を去ったラッパーの軌跡。90年代を代表するヒットメーカーにして、米西海岸のヒップホップ・シーンでもっとも愛された存在。1994年夏、クーリオは時代の流れを大きく変えた伝説のヒット曲「Fantastic Voyage」を携えて華々しく登場し、底抜けのユーモア、奇抜なドレッドヘア、遊び心あふれるビートで時代の代名詞となった。

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「slide-slide-slippity-slide」という歌詞のごとく、クーリオはあらゆる人々をプラス思考へと誘導した。彼の「Fantastic Voyage」や「1,2,3,4(Sumpin’ New)」といったヒット曲と比べると、当時のラジオから流れてくるネガティブな連中の曲はどれもうさん臭く聴こえた。



「Fantastic Voyage」はどのポップミュージックとも一線を画していた。当時はラップ系からロック系まで、どのラジオ局も負のスパイラルに陥っていた(この曲がリリースされたのはカート・コバーンの死からわずか数週間後だった)。クーリオは「Fantastic Voyage」の元ネタとして、中西部のR&Bバンド、レイクサイドによる1980年の快楽主義的なダンスフロアの名曲をひっぱってきた。秀逸なデビューアルバム『It Takes a Thief』に収録されたこの曲は、クーリオの出世作となった。本人も言うように、「ヒップがなければホップもない」。「俺は『It Takes a Thief』のおかげで仲間たちから気に入られた」と、2017年のローリングストーン誌の取材でも語っている。「それから『Gangsta’s Paradise』――あの曲で白人からも気に入られた」

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クーリオの「slippity-slide(しなやかに世間を渡る)」美学は当時新鮮だったが、今もしっかり根付いている。90年代ポップカルチャーで彼が開拓した独自路線は、1995年のティーンムービーの決定版『クルーレス』で見事に表現されている。映画の中で、アリシア・シルヴァーストーンとステイシー・ダッシュら女子軍団はクーリオの「Rollin’ With My Homie」に合わせてパーティに興じる。とくに印象的な場面のひとつでは、ブリタニー・マーフィ演じる周りから浮いたスケーター少女が、別れた恋人との思い出の曲だった「Rollin’ With My Homie」をバックに別離を嘆いて泣きじゃくる。

クーリオは決して歩みを止めることなく、突き進み続けた。ここ数年は家族と出演したリアリティ番組『Coolio‘s Rules』や、WEB動画シリーズ『Cookin’ With Coolio』といったプロジェクトにも手を広げ、同名の料理本には本人が考案した「ゲットー・グルメ」料理のレシピが満載だ。「厨房のポン引き王」を自称する彼のレシピには、「ブロゲッティ・パスタ」や「チキンレタスロール」などがある。2017年には「俺は料理できるんだぜ。料理だったらラップと同じぐらい上手くやれる――ラップにも劣らない腕前だ」と語っていた。



Translated by Akiko Kato

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